「出自より命」ゆりかご15年 159人受け入れ、親の身元2割が不明

 親が育てられない子を匿名でも受け入れる慈恵病院(熊本市西区)の「こうのとりのゆりかご」(赤ちゃんポスト)は10日、開設から15年を迎える。蓮田健院長が9日に記者会見し、子どもの出自を知る権利を損なうとの批判に対し「匿名性を貫かなければいけない女性がいる。出自よりも命が優先だ」と語った。

 ゆりかごは2007年5月10日に設置され、21年3月末までに計159人が預け入れられた。20年度は過去最少の4人。

 蓮田院長は「出自を知る権利は最大限尊重しなければいけない」とした一方で、国内では年間20件前後の赤ちゃんの遺棄・殺人事件が起きていると説明。「(母親の匿名性の担保など)特別な配慮をしなければ命や健康が損なわれてしまう。年間の預け入れがゼロになってもゆりかごは必要だ」と強調した。

 慈恵病院は19年、病院以外に身元を明かさず出産できる独自の「内密出産制度」を導入し、今年1月に初事例を公表。蓮田院長はゆりかごと内密出産のいずれも継続すると明言し「病院を訪れる女性の生きづらさは本人だけの責任ではない。そこを理解してほしい」と訴えた。

 熊本市の大西一史市長は、「今後も相談体制の充実や内密出産制度を含めた支援制度の在り方について、国や全国の自治体と連携して取り組む」とのコメントを発表した。

危険な「孤立出産」半数

 「こうのとりのゆりかご」(赤ちゃんポスト)には159人が預け入れられ、その2割は親の身元が分かっていない。医療者が立ち会わない自宅などでの「孤立出産」が半数を占め、母子の健康への懸念も根強い。託された小さな命は、多くの課題を突き付けている。

 開設初日の2007年5月10日、1人目となる当時3歳の男児が預けられ、初年度は17人。08年度の25人が最多で、以降は減少傾向にある。20年度が最少の4人になったのは「新型コロナウイルス下に伴う移動制限などが要因」(病院)という。

 子どもの年代別では、生後1カ月未満の新生児が131人(82%)、うち生後7日未満は88人(55%)。他に乳児19人、幼児9人。36人が低体温症など医療が必要な状態だったといい、17人に障害があった。

 親の身元が分かっているのは155人のうち124人(19年度末時点、80%)。残る31人は、将来にわたり出自に関する情報を得られない可能性がある。

 預けた父母らの居住地は熊本県内が13人で、同県を除く九州が最多38人。関東や中部、近畿といった九州外は69人(43%)で、九州内の51人(32%)を上回った。母親の年齢は10~30代が112人だった。

 利用した理由(09年10月から複数回答)は「生活困窮」が45件と最多、「未婚」30件、「世間体・戸籍」26件と続いた。孤立出産をした母親は83人(52%)。医師や助産師の手当てがない上に、出産直後に長距離移動するなど母子共に危険性が高い事例もあった。

 こうした孤立出産を防ごうと、病院は19年末、予期せぬ妊娠に悩む女性が院内の相談室長だけに身元を明かして出産できる独自の「内密出産制度」を導入。昨年末、10代女性が制度を使って出産した。

 病院は06年11月、24時間体制の無料電話相談を開始。相談件数は17年度の7444件がピークで、その後も毎年度6千~7千件ある。「自宅で出産したが逆子で息がない」といった緊急性が高い内容もあった。

 大学教授や弁護士らで構成する熊本市の「ゆりかご専門部会」は昨年6月、第5期(17~19年度)検証報告書を公表。「子どもが出自に悩む事態は早急に改善されるべきだ。予期せぬ妊娠に対する公的機関の相談・支援体制も充実させる必要がある」などと指摘している。 (西村百合恵、鶴善行)

関連記事

熊本県の天気予報

PR

開催中

若尾経 青瓷展

  • 2022年5月17日(火) 〜 2022年5月23日(月)
  • 福岡三越9階岩田屋三越美術画廊

PR