経済安保法成立 恣意的運用の懸念拭えず

 国際情勢や社会環境がどう変わっても国民の生活基盤を守る。そのための法律だが、政府の行き過ぎた規制は自由な企業活動を損ないかねない。一定の歯止めが必要だ。

 岸田文雄首相が力を入れる経済安全保障推進法が成立した。(1)重要物資のサプライチェーン(供給網)強化(2)基幹インフラの安全性確保(3)官民による先端重要技術の開発推進(4)特許出願の非公開-の四つの柱で構成される。背景にあるのはハイテク分野における中国の台頭だ。

 新型コロナの流行当初、不織布マスクが店頭から消えたことは記憶に新しい。世界的な半導体不足によって自動車の減産も起きた。供給網を海外に依存する危うさを国民も実感しているだろう。

 社会システムのハイテク化はサイバー攻撃などのリスクと表裏一体だ。軍事転用可能な技術の国外流出を防ぐとともに、国際競争力も高めなければならない。

 こうした課題に対応する法整備に異論はない。問題は、民間企業にかつてない規制を課す政府が、恣意(しい)的に法律を運用する懸念が拭えないことである。

 法律は重要物資やインフラに用いる機器の調達先を把握し、導入計画を審査するなどの権限を国に与え、事業者側には罰則を設けた。

 対象となる重要物資やインフラ事業者、特許が非公開となる技術分野などは法律に明示されておらず、国会審議が不要な政令や省令で指定することになっている。法文の中でこのような規定は138カ所に及ぶ。

 政府は政省令による指定について「国際情勢の変化や技術の進歩などに機動的に対応するため」と説明するが、政府に一任される限り恣意的運用の余地は残る。政府にその意図がなくても企業が介入を嫌って、活動が萎縮することも考えられる。

 法律には関係事業者への助成措置も盛り込まれた。競争力を失って本来は淘汰(とうた)される企業や産業を支援するようなことになれば、国が市場原理をゆがめる恐れがある。学術分野では自由な研究を阻害する影響も指摘されている。

 法案審議は衆参の委員会で「自由かつ公正な経済活動の促進との両立」「政省令は関係者や有識者の意見を考慮して制定」などを求める付帯決議が採択され、与野党の大半が賛成した。だが法的拘束力はなく、政府がフリーハンドを握ることに変わりはない。

 この法律を巡っては、担当の内閣審議官が無許可で民間の仕事を兼業したなどとして懲戒処分を受けた。政府と民間の適切な距離感が問われる法律だけに、公正な法運用への疑念を招いた。政府関係者は改めて襟を正してほしい。

 安全保障分野は公開できない情報を伴うとはいえ、法律の運用には透明性が欠かせない。政府の規制を必要最小限にとどめるとともに、国会に不断の監視を求めたい。

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