フィリピン大統領 強権排して地域の安定を

 フィリピンの大統領選が今月投開票され、フェルディナンド・マルコス元上院議員が他の候補に大差をつけて当選した。6月末に就任する予定だ。この新大統領は、フィリピンで長期の独裁体制を敷いたマルコス元大統領(故人)の長男である。

 父マルコス氏は民主活動家を虐殺するなどの政治弾圧や巨額の不正蓄財が世論の反発を呼び、市民たちの大規模デモによって1986年、事実上国外追放された。

 もちろん父と息子は別人格であり、今回の大統領選は父の時代と違って自由で民主的な体制下で実施された。しかし選挙戦での主張や言動から判断すると、マルコス氏が強権的な政治手法に頼る指導者になるのではないかという懸念は捨てきれない。

 ドゥテルテ現大統領は司法手続きを経ずに麻薬犯罪の容疑者を殺害するといった強硬な麻薬撲滅作戦を展開し、国際社会から「人権軽視」と強い批判を浴びてきた。マルコス氏はそのドゥテルテ氏の路線継承を掲げている。

 またマルコス氏は選挙戦で主要な候補者討論会を欠席した。父の独裁について問いただされるのを避けたとみられる。ネットの交流サイト(SNS)では父のインフラ整備の功績を強調し、若年層から支持を集めた。独裁や強権に関して否定的な見解を示していないのが不安材料だ。

 マルコス氏はイメージ戦略に偏り、選挙戦では政策をほとんど語らなかった。国民や国際社会に向け、政権運営の基本姿勢や麻薬対策の手法について詳細に説明すべきだ。

 もう一つ気がかりなのは外交の方向性である。特に中国との関係だ。フィリピンと中国は長年、南シナ海の島々の領有権を巡って対立してきたが、ドゥテルテ政権は経済関係を重視し、領有権の主張を棚上げして中国に接近した。その方針も継承するのか。

 フィリピンはもともと米国と同盟関係にある。南シナ海や台湾に圧力を強める中国と米国の対立が強まる中、地政学上の要衝にあるフィリピンが米中間でどういう立場を取るのか。日本も含めた国際社会の注目が集まっている。

 東南アジアでは、いったん民主的な政権に移行しながら強権的な政権が復活するケースが相次いでいる。憂慮すべき事態である。米国など民主主義の国々はそうした政権の人権軽視の姿勢に苦言を呈するが、介入を嫌う指導者たちは逆に強権を容認する中国との関係を深めがちだ。

 マルコス氏は強権的な政治手法を排し、貧困や格差拡大といった課題を解決することで国民の融和を図るべきだ。さらに国際法や人権の尊重など普遍的な価値観に基づいた外交で南シナ海周辺地域の安定にも寄与してほしい。

 日本政府も、中長期的には国際ルールに沿った内政と外交が国家の繁栄につながることを新政権に粘り強く説き、国造りを支援していきたい。

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