再び叶わなかった「福岡サミット」 G7開催地、"リード"を変えた潮目

【東京ウオッチ】

 2023年の先進7カ国首脳会議(G7サミット)の開催地について、岸田文雄首相は5月23日、自身の地元・広島市と公表した。ロシアのウクライナ軍事侵攻を受け、今こそ被爆地から核兵器の脅威と軍縮、平和の重要性を提起する必要があるとして、バイデン米大統領との首脳会談で了承を取り付けた。

 共同記者会見をテレビで眺めながら、私は福岡市の高島宗一郎市長が約4カ月前、首相官邸で発した言葉を思い出していた。

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 「ライバルは、広島だと思っています-」

 G7サミット招致に手を挙げた高島氏は1月、服部誠太郎・福岡県知事らと一緒に首相と面会し、福岡サミットを要望。終了後、記者団の「ぶら下がり取材」に応じた際、こうライバルを名指ししたのだ。

 私は、やや驚いた。官邸ロビーでマイクの前に立つ面会者は通常、首相に配慮して当たり障りのない発言しかしないことが多い。あえて、陳情したばかりの先方のお膝元に宣戦布告するかのような発信に、メディアは飛びついた。「福岡市長『ライバルは広島』」の見出しやテロップが躍った。

 サミット開催地の決定は宰相の「専権事項」とされる。「核兵器のない世界」を政治信条に掲げる首相にとって、当初から、主要国首脳に被爆の実相を伝える広島サミットに強い思い入れがあったのは間違いない。高島氏のライバル発言には、首相に「地元びいきにならず、しっかり福岡を採点してほしい。世の中も注目してますよ」とくぎを刺す意図があったように思えた。

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 福岡市は、2019年の20カ国・地域首脳会議(G20サミット)の招致レースで大阪に敗れた(※G20財務相・中央銀行総裁会議を開催)。今回のG7サミットは高島氏にとって、雪辱の舞台。決して夢物語でなく、特に22年が明けたころはむしろ広島市と、こちらも名乗りを上げた名古屋市をリードしている、と感じる時があった。

 23年春に開業する米系高級ホテル「ザ・リッツ・カールトン福岡」を筆頭に、福岡市では海外VIPを十分におもてなしできる宿泊施設の供給能力が急速に増強されてきた。また、首脳たちの専用機が発着する福岡空港は都心部と近く、アクセスが極めて良好であることに加え、G20会議など数々の国際会議の会場となってきたホテル「ヒルトン福岡シーホーク」は博多湾に面し、福岡市は都市インフラ、警備面の評価点が高いと想像された。

 「政治的資源」の強みもあった。

 高島氏は、政府の有識者会合のメンバーやアドバイザーを複数務めており、こまめに東京に足を運んで政府関係者や与党政治家と接触してきた。ある政府高官は「高島さんが来て、『ホテルは福岡が一番なんです』って力説していたよ。彼って熱心だね」。岸田政権のキーマンである麻生太郎自民党副総裁、自民党最大派閥を率いる安倍晋三元首相との間の個人的なパイプは人口に膾炙(かいしゃ)しており、永田町を歩き回っていると、高島氏を念頭に「福岡の応援団は強力ですからね」(首相側近)といった言葉もよく耳にした。

 広島に弱点もあった。被爆地開催に対し、G7の核保有国が難色を示す可能性が指摘されていた。首相も、周囲に「特に、英仏を広島に呼ぶのは簡単ではない」と漏らしていたほどだ。1月、広島市長、広島県知事が官邸に提出した要望書には、G7サミットに選ばれない場合、主要関係閣僚会合である「外相会合」を持ってきてほしいとする一文が記されていた。

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 潮目を変えたのは2月下旬、ロシアのウクライナ侵攻だ。

 プーチン大統領は核兵器の使用をほのめかし、ウクライナを支援する北大西洋条約機構(NATO)中心の西側諸国を強烈にけん制。日本政府内では「核兵器の現実的な脅威が一気に高じた今こそ、広島でG7サミットを開くべきではないか」との声が強まっていった。

 3月下旬には、バイデン米大統領の側近の一人であるエマニュエル駐日大使が、首相とともに広島市の平和記念公園を訪問。5月には、欧州連合(EU)のミシェル大統領も広島入りしてロシアの核に懸念を表明、与党・公明党の山口那津男代表は「G7サミットの広島開催」を首相に直接申し入れた。

 “外堀”が埋まっていく流れに沿うように、4月中旬には複数メディアが同じタイミングで、G7サミットに関して「政府が岸田文雄首相の地元・広島市を有力候補地として検討している」と報じた。定例記者会見で、受け止めを問われた松野博一官房長官は「現時点では、なんら決まっているものではありません」とコメント。私たちも正直、判断に悩んだ。政府関係者によると、霞が関はこの頃までに総合的な観点から「広島が優れている」という趣旨の報告書を作成し、官邸に提出していたのだという。

 いわく-。広島は、外資系高級ホテルが開業する予定である。伊勢志摩サミット(16年)の外相会合の開催経験も有している。メイン会場を想定するホテルの警備上の問題もない。加えて、この時期に広島で開催する外交的な意義が大きい。

 別の関係者によると、首相は4月下旬には広島で開く意向を固め、5月に入り関係国との水面下の交渉に着手した。「一部の国から『OK』がなかなか来なかったが、(日米首脳会談後の共同記者会見での)発表ぎりぎりのタイミングで了解が取れた」(政府高官)。最高権力者の胸の内に触れ得る側近は、私に対し「ウクライナ侵攻が起こった時点で『勝負あり』だった。福岡には、分かってほしい。広島開催は日本のため、世界のためなんですよ」と告げた。

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 改めて5月23日、G7サミットの広島開催決定。

 高島氏は「平和に対して広島が持っている、特別な意味を最優先で考慮されたのだと思う」と理解を示しながらも、「率直に言って残念です」と続けた。関係閣僚会合の開催要望の見解を記者団から問われると、「サミット以外に手を挙げることはありません。今日も聞かれたが、『結構です』と断りました」と答えた。

 世に「天の時、地の利、人の和」という。G20に続き、アジアのリーダー都市に橋を架ける「フクオカ・サミット」の挑戦は、届かなかった。

(井崎圭)

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