強豪中運動部「監督の命令は絶対」 怒号と体罰、芽生えた疑問 親も子も本音で語れず 

 ミスをすれば体罰を受け、有力選手は校区外からも集まる-。九州の公立中の部活動に数年前まで所属したマコさん(10代、仮名)は、本紙の取材に当時の状況を打ち明けた。「監督の命令は絶対だった」

 小学生からあるスポーツを始める。好成績を残し、県内で強豪とされる校区外の公立中を選んだ。現住所では進学できないため、住民票を部活の卒業生宅に移した。実際は保護者が毎日、自宅から車で送迎してくれた。

 「どこに住んでいるの?」。級友から聞かれると、卒業生宅を教えた。担任の家庭訪問は「部活がある」ことを理由に、学校での面談に代えてもらった。

 「口外は禁じられていたけど、自分以外にも同じやり方で入部した生徒はいた。自宅が遠く、実際に卒業生の家に住む生徒もいた」

 平日の練習は午前7時前から始まる。グラウンドを走り、筋トレをした。昼休みも集まり、それぞれが「自分の課題」を克服するためにトレーニングに励んだ。放課後は午後4時半から8時ごろまで練習が続く。

 丸1日の休みがあったのは元日くらい。週末は各地で練習試合をした。送迎のためのバスは生徒の父親が運転するのが慣例で、大型免許の取得が求められた。

 母親は昼食作り。肉、魚、煮物、デザートなど一品ずつを各家庭に振り分け、数十人分を調理する。試合会場に持ち込んだ炊飯ジャーで米を炊き、汁物を温め、持ち寄った料理と一緒に提供した。

 マコさんの母親は「午前3時に起きて準備しないと間に合わなかった。チーム内の母親からは『親が病気で死ぬ事態になっても、やってください』と言われた」と明かす。

 この昼食を食べるのは、試合相手も含めた監督やコーチ、保護者たち。米飯が中心の生徒の昼食は、別に母親たちが作った。

 厳しい指導が当然となっているチームとの試合では、監督は遠慮なく怒号を飛ばす。試合後には監督がミスをした生徒の頬をつねった。爪が食い込み、血が流れた。監督は「誰かに聞かれたら、猫に引っかかれたと言え」。遠征先で1泊するときは、試合後の練習と夕食抜きの罰が科された生徒もいた。

 「ミスしたから、しょうがない」。マコさんはそう思う一方、理不尽な体罰に疑問を抱いたこともある。差し入れでもらったアイスをクーラーボックスに入れようとして、頭を平手でたたかれた。理由は教えてくれない。叱られないためには忖度(そんたく)するしかなかった。

 生徒間でも愚痴を言い合える関係はなかった。叱られた人をフォローする生徒は少なく、監督の味方をする言動が目立った。悪口を漏らしでもしたら、どんな報復が待っているのか-。隙は見せられなかった。

 保護者同士も同じ。マコさんの母親が車で病院に立ち寄ってから部活に顔を出すと、ある保護者は「寄り道している」と監督にうその報告をした。部活に対する熱意が足りていない、とでも言いたかったのだろうか。母親は「それぞれの保護者が、自分は監督に従順だとアピールするのに必死だった」と思い返す。

 教員も保護者も、応援に訪れた卒業生も、体罰や過剰な練習を問題にする人はいなかった。むしろ「チームを勝たせる指導者」として監督への評価は高く、高校へのスポーツ推薦を期待する保護者も多かった。

 マコさんは部活を続けるうちに、そんな体質に疑問が湧き始めた。けがを理由に退部を余儀なくされたり、監督の意向に反発して悪者にされたりする生徒の姿を目の当たりにして、考え方が変わっていった。

 「振り返れば、監督から何か教えられたことはなく、生徒を褒める姿も見たことがない。いつも怒っていた。暴力がなく、部員同士で助け合う。そんな環境であれば良かったのに」

 マコさんは中学卒業後も、そのスポーツが好きなことは変わらない。高校生や社会人になっても、後輩を応援に行く人はたくさんいる。でも、自分が顔を出すことはない、と思う。

 (編集委員・四宮淳平)

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 学校の運動部で活動する意味や目的とは何だろう。シリーズで考える。

部活での体罰は93件 20年度文科省調査

 文部科学省の2020年度調査によると、全国の国公私立の幼稚園、小中高、特別支援学校などで確認された体罰は485件。体罰が行われたのは、授業中・保育中が最多の217件で、部活動の93件が続いた。

 表面化するのは一部とみる関係者は多い。4月には熊本県の私立高サッカー部で、コーチが生徒に暴力を振るう様子を撮影した動画が交流サイト(SNS)で拡散し、発覚した。

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