一時ホームレス状態…救ったのは教え子 新作絵本で再起期すマンガ家

 人気マンガ家だった内田かずひろさん(57)=福岡市出身、東京都在住=は、世の中の本離れの傾向などが影響して近年収入が激減した。貧困に陥り、一時ホームレス状態にもなった。多くの人の助けを受けて作家としての生活が整い、小学生のさぶろうさんとその一家と暮らしている犬の生活をつづった新しい絵本「シロのきもち」の作と絵を手がけ、出版した。「感謝を込めて胸いっぱいのうれしい気持ちで描いた」。やさしいタッチの新作で再起を期す。

 作品は自身の漫画「シロと歩けば」の一編を新たに描き下ろし、絵本化した。飼っている家族に自分の思いを伝えようと行動を示すシロに心が温かくなる物語で、文は歌人の桝野浩一さんが担当した。シロは、お母さんの買い物かごを見て、ワン、学校帰りのさぶろうを迎えたらランドセルに飛びついてワンワンと一生懸命に話しかける。ほのぼのとした展開に、朗らかな背景と独特のにじみのある水彩が印象に残る。

 内田さんは1990年、25歳でデビュー。すぐに売れっ子となり、朝日新聞で連載された、やはり犬が主人公の漫画「ロダンのココロ」など、順調にマンガ家人生を謳歌(おうか)していた。「考える犬」のロダンと飼い主の家族の日常を描いた作品は子どもだけでなく大人の共感を呼んだ。

 大手通信会社のCMにも自身の作品が、しりあがり寿さんや柳沢きみおさんら実力者とともに採用されたことがある。収入も潤沢にあり、好きな仕事に没頭できる環境だった30代。未来は明るいと思っていた。

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 しかし、この十数年、世間の本離れ、漫画離れなどで仕事が激減。抱えていた連載は打ち切られ、収入は途絶えた。都内にある絵の専門学校講師も務めていたが、経営者交代の影響で解雇された。経済環境は悪化する一方で、ついに生活保護を申請しようと区役所に相談した。担当者からは、アパートでなく低額や無料で応じる福祉施設の宿泊所に入って日雇い労働で生活の糧をつくってほしいと説明をうけた。その上で生活が安定するまで本業である漫画はやめてほしいと諭された。

 「親身に相談に乗っていただいたのはすごく感謝している。それでも漫画を描けないなら、自分は死んだも同然。これだけは譲れない」。生活保護は諦めた。

 居住アパートも取り壊しで出ざるを得なくなり、昨冬には“ホームレス状態”となったため、教えていた専門学校の学生に一時期居候をさせてもらった。「先生、良かったらうちで泊まりなよ」。厳冬の中で震えながら招かれた暖かい部屋。「こんなによくしてもらえるなんて。しかも教え子に」。やさしさが染みた。

 内田さんの貧困状況を知った一般社団法人「つくろい東京ファンド」から声をかけられた。生活困窮者の支援活動を行うこの団体から経済的支援を得て、なんとか住居を見つけることができた。

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 現在もアルバイトを続けている。絵の道具を買うのにも一苦労だ。パソコンがないため、近くのコピーサービス店で機器を借りて作品を加工したり、出版社に送信したりする日々。衣服も節約のため20代に買ったものを着続けている。本業の方では、5月まで本紙で芥川賞作家古川真人さんの連載随筆『横浜通信』の挿絵を担当。そして、ようやく新しい絵本を刊行した。

 生活は相変わらず「カツカツ、ギリギリです」。経済的には社会の底辺にいるのかもしれない。でも筆を折るつもりはなく、人々の心を和ます絵を描き続けようと思っている。 (山上武雄)

 ◇東京都新宿区荒木町のコーヒー&ギャラリー「ゑいじう」で今月12日まで個展「シロのきもち」を開いている。午前11時から午後7時(最終日は午後5時まで)。

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