【朗読】「じゅうでん」~よるの紅皿~
「おかあさん、じゅうでんして」。夕飯の支度をしていると娘が真面目な顔で頼みに来た。「いいですよ」と両手を広げると私の胸に額を当てて、ぎゅっと抱きついてきた。これが彼女のお気に入りの儀式だ。
いつもはいきなり覆いかぶさったりするのに、このときばかりはあらためてお願いが…という雰囲気でやって来る。7歳の彼女にもいろいろあるのだろう。さっきは叱りすぎたかな、それとも友達とけんかしたのかな。思いをめぐらせ、反省もしながら、娘の心が満タンになるように心を込めて抱き締める。
もう、私のみぞおちの辺りまで背が伸びている。私が彼女の充電器になってあげられるのはあと何年だろう。「おかあさん、いいにおい。げんきになってきた!」と笑顔になって私を見上げると充電完了。柔らかな髪をなでながら「またいつでもどうぞ」と言うと、再び外の世界へ飛び出していく。
子育ての自信がない私にとって、充電器だと言ってくれるのは何よりのご褒美だ。私も娘に充電してもらったような気持ちになる。感謝を込めて、献立に娘の好きな卵焼きを追加する。
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投稿者:井上智佳子さん(当時37歳・主婦、福岡市南区)
読み手:松元茜(西日本新聞me)
2014年11月26日に紙面掲載された投稿です。