イノシシ捕り名人の40年 総捕獲数は2000匹 命の尊さは忘れずに

 イノシシの目撃情報が福岡市内でも相次いでいます。戦後、福岡県内の約1割だった分布域は、近年は9割に拡大。その被害はもはや農村部だけの問題ではありません。西日本新聞「イノシシ特命取材班」は、主に福岡都市圏での生息、被害状況を取材中です。街をすみかにしつつある野生動物の現状を今後も追跡していきます。こちらの「イノシシポスト」に、皆さんの目撃情報をお寄せください。この企画「街がすみかー追跡・イノシシ特命取材班」は随時配信します。

「街がすみか―追跡・イノシシ特命取材班」#番外編

 西日本新聞「イノシシ特命取材班」が教えを請うイノシシ捕りの名人がいる。今回の企画「街がすみか」の初回で登場した福岡市東区香椎とその周辺の山で約40年、狩猟を続けてきた本郷峰男さん(73)だ。この間の捕獲頭数は約2000匹。イノシシの習性に精通し、香椎の街を守ってきた。約150キロの大物を仕留めたこともあるという。イノシシを「山の恵み」と語り、野生動物との“知恵比べ”に挑み続けている。

 香椎の農家に生まれた。会社勤めだった35歳ごろ、実家の田畑にイノシシが出るようになった。趣味でわな猟の免許を取得。自分で溶接して箱わな3個を作り、狩猟を始めた。

 網目状の鉄筋でできた箱わなにイノシシが入ると、ワイヤが体に引っかかり、入り口が閉まる仕組みだ。ただイノシシはわなのような人工物に対し、警戒心が強いという。中にどうやって入らせるか-。そこが猟師の腕の見せどころだ。

 先人の箱わなを観察しながら、見よう見まねで改良と工夫を重ねて本郷さんが行き着いたのが、イノシシとの駆け引きだ。

 最初、箱わなの入り口が閉まらないようにするのがこつ。中に入らせて、慣れさせるためだ。ワイヤを木のツルに変えるカムフラージュも施す。必殺技は、餌の米ぬかに水をまいて発酵させ、においでおびき寄せる手法。名人芸を教わっていると、ついつい聞き入ってしまう。

 捕獲したイノシシの胃袋の中を、1年にわたって研究したこともある。

 ドングリやクリ、タケノコ、沢ガニ、虫など季節ごとに餌が移り変わっていくのが分かった。

 「イノシシは一度、餌にありついたら、そのことを決して忘れない。この時期にここに来たら、これが食べられると覚えているはずだ」

 イノシシを飼ったこともある。狩猟を始めて3年ほどで捕まえた、生後間もない「うり坊」を自宅に連れ帰った。妻が「くさい」というので、一緒に風呂に入り、かわいがった。「ハナ」と名前を呼ぶと、すぐに寄ってくるほどなついた。「犬と同じように賢い」と実感したが、近所に怖がる人がいたので、やむなく手放した。

 狩猟を始めて5年ほどの頃。近所の病院に現れた150キロのイノシシを捕まえた。すぐそばのドングリ狙いとみられたが、病院の生ゴミ入れをひっくり返し、荒らしていた。近くに箱わなを仕掛けて2カ月。捕らえた様子を見て仰天した。体長も、箱わないっぱいの大きさだったのだ。

 「仕留めたのはバナナ」と記憶は今も鮮明だ。病院の生ゴミの中にバナナの皮があったのを発見。「おいしそうな匂いを覚えているはず」と、バナナを一房丸ごと餌にしたのが当たった。

イノシシ捕り名人の本郷峰男さんが、いとこと捕まえた100キロ超えの大物(本郷さん提供)

 現在は、親類の補助、相談役として狩猟に同行する。昨秋からのシーズンの捕獲数は約60匹。香椎と周辺の下原地区などを含めて山中や住宅地に、人から譲り受けるなどして増やした箱わなを20カ所近く設置。2日に1回と、頻繁に見回って捕獲数を増やした。

 30年前は一帯で、200匹以上のイノシシが生息していたようだ。この間捕獲を続け、今はその10分の1の20匹ほどまで減らした。毎シーズン50~60匹捕獲しても、ゼロにはならない。イノシシは多産の上、別の地域からも入り込んでくるからだ。「イノシシは腹いっぱいになるまであっちこっち動き回るから、地元では実数より多くいるように見える」という。

 肉は仲間で分け合って食べる。「山の恵み」であり、命を尊ぶ気持ちを持ち続けたいと思っている。親類がとどめを刺す前、山を出る時、自宅に帰ってからの3回、「成仏してくれ」と手を合わせることを欠かさない。

 いつまで山に入るか聞くと、「まだ分からない」と名人は笑顔を見せた。(水山真人)

【イノシシの生態と被害】本州、四国、九州に分布し、雄の成獣は体重60~160キロ、雌は40~80キロになる。主に広葉樹林を好み、耕作放棄地にも出没する。雑食性で食欲も旺盛。雄は単独生活、雌はグループで行動する。出産は通常は年1回で春だが、秋に産む例も。警戒心と学習能力が高く、安全で食べ物が豊富な場所に出没を繰り返す傾向がある。嗅覚も非常に優れているという。雄は牙が大きく発達し、突進され突き刺さると、死亡事故になる場合もある。農産物被害額(農林水産省統計)は2020年度、最多の広島県で3億6000万円、2位の福岡県は3億1000万円に達した。人身被害(環境省統計)も16~21年度の合計で、兵庫県が1位の48人、4位の福岡県が23人だった。イノシシの特性については、専門書「実践野生動物管理学」(培風館)を参考にした。

(以下の「福岡イノシシマップ」は、本紙「イノシシ特命取材班」が取材でイノシシの生息証言を得られた場所です。皆さんからも情報を頂きながら、充実させていきます)

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