憲法改正 議論深めねば国政を誤る
国家の礎である憲法は今のままでいいのか。仮に見直すとすれば、どこに着目し、いかなる国政を目指すのか。
今回の参院選は憲法改正論議の行方を占う上で従来にも増して重い意味を持つ。先の通常国会で、停滞していた論議が一転、加速する流れに変わったからだ。
衆院憲法審査会は自民、公明、日本維新の会の3党に加えて国民民主党が主導する形で過去最多となる16回開かれた。参院選の公約を見ると、NHK党を含め与野党の5党が改憲に前向きの姿勢だ。
重要なのは、改憲に異論を唱える他党を含め、各党の主張がそもそも民意を十分に反映したものと言えるのか、私たち有権者がしっかりと目を凝らすことである。
現時点で改憲に前向きな勢力は衆参両院で3分の2以上の議席を占め、数の上では国会による改憲発議の要件を満たしている。参院選で、この状態が維持されるか否かは大きな注目点の一つだ。
自民は9条への自衛隊明記や戦乱、大規模災害といった危機に備える緊急事態条項の創設など4項目を掲げる。国会での攻防は大きく分けて、これに同調または近い考えに立つ勢力と、反対する勢力が互いに譲らぬ構図だ。
後者の立憲民主、共産、れいわ新選組、社民の4党は、国家権力を縛る方向での「論憲」や、憲法の理念をより生かす「活憲」を主張する。
両者の対立は必ずしも不毛というわけではない。国内外の情勢変化に応じて国の危機管理の在り方などを真剣に考えることは大切だ。同時に、憲法の精神を国政に深く根付かせる営みも欠かせない。
国会に求められるのは、この両面から国民の暮らし全体を広く見据え、議論をさらに深めることである。
国政の運営は憲法を根拠とする諸法令に基づく。改憲を目指すなら、新たな条文に沿って、どの法令を見直し、どんな政策を推進するのか。内閣の権限を強化するなら、併せてその歯止め策はどう規定するのか、といった点が明確でなければならない。
この点に照らすと、自民案は観念論が先行し、生煮えの印象が拭えない。9条改正には公明が慎重姿勢を示すなど与党内にも温度差がある。
論憲や活憲も抽象論では説得力を欠く。新型コロナ禍は医療提供体制の脆弱(ぜいじゃく)さや社会的な弱者にしわ寄せが集中しがちな矛盾をあぶり出した。憲法がうたう基本的人権や生存権に関わる問題の裾野は広い。これらをどう解決するのか、具体論が聞きたい。
憲法は為政者の道具ではない。いかなる困難に直面しても「国のかたち」を最終的に決めるのは国民である。
拙速に流れがちな今の政治状況を黙認すれば国を危うくする。1票の選択を通じて、主権者である私たち自身も声を上げねばならない。