「お母さん、背番号つけて」高校最後の打席の前夜に…母の涙

 第104回全国高校野球選手権沖縄大会が6月18日に開幕し、いよいよ球児の夏が始まった。九州各県は7月に開幕を迎えるが、夏の大会を前にもう一つの「夏」の熱戦が福岡で繰り広げられた。コロナ禍で試合や練習試合が中止になり、高校野球を十分に満喫できなかった選手たちのために、福岡市とその周辺の9校の指導者がメンバーから漏れた3年生のための親善試合を企画。トーナメントで行われ、6月18日の決勝で福岡大大濠が優勝して幕を閉じた。

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 決勝が終わるとグラウンドで「撮影タイム」が始まった。両チームの選手はもちろん「保護者の方もどうぞ入ってください」と監督から声をかけられた保護者もグラウンドに入り、みんなでパチリ。グラウンドでみんなが写真に納まるなんて、夏の大会ではまずできない。選手にとっても家族にとっても忘れられない思い出になっただろう。指導者の粋な計らいだ。

 代打で高校最後の打席に立った沖学園の山下マネジャーの母、裕理子さんはスタンドで息子の姿を見守っていた。試合前夜に「お母さん、背番号つけて」と息子から背番号21を手渡された。「息子も私もまさか背番号をもらえるとは思っていませんでした。少年野球の時からずっと背番号を縫ってきて、これが最後なんだなと、一針一針、大切に縫いました」。裕理子さんの目に涙があふれた。これも親善試合ならではだろう。

 福岡の地区大会は4地区に分かれるが、今回企画したのは福岡市とその近郊で構成される「福岡地区」の指導者たち。2年前の夏をきっかけに交流を深めてきた9校による昨秋の研修会では、各チームから参加した主力選手が学校の垣根を越えて各校の指導者から指導を受けた。「公立校の若い指導者は私立の強豪校の監督さんとなかなか話をできなかったんですが、これを機に話を聞いたり練習試合を組んでもらったりして、本当に恵まれていると思います」と準優勝校の香椎の杉野弘英監督は話す。

 2年前のあの夏。コロナ禍で甲子園の夢が突然なくなり、涙を流した当時の3年生たち。だけど、あの夏に生まれたものが確実に芽吹き、2年後、こんな形になって今の球児の糧になっている。あの涙は確実に次の世代に何かを残していた。それがうれしかった。

 香椎の選手は自分がやりたかったポジションや好きな数字などを選んで背番号を決めた。希望が重なった場合は選手同士で話し合って決めたという。今までの常識にとらわれないことをやれるのも親善試合ならでは。きっと各地で新たな取り組みが出てきているのだろう。コロナ禍でなくなったものばかりではなく、生まれるものもある。これからの高校野球を変えるような新しい波が生まれればいいなと思う。(高校野球担当・前田泰子)

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