福岡・天神「大人の弁当の日」 おかずシェア 食にワクワク 週1回 異業種交流にも

弁当を通して送別メッセージを送るなど「大人の弁当の日」はいつもにぎやかだ 拡大

弁当を通して送別メッセージを送るなど「大人の弁当の日」はいつもにぎやかだ

 子どもたちの食べ物への感謝や自立心を育み「生きる力」を養おうと、自分で作った弁当を持参する「弁当の日」が全国の学校に広がっている。一方、福岡市の都心・天神の市役所西側ふれあい広場で続いているのが「大人の弁当の日」。毎週水曜、弁当を中心に参加者が輪をつくる姿に、生きる力にも通じる「食の力」を感じる。

 卵焼き、空揚げなど定番のおかずに加え、豆腐のみそ漬けなどちょっと変わった品がテーブルに並ぶ。

 「よく見ると酒のさかなばっかり」「ビール飲みたーい」

 少し遅れて来た女性が初めて作ったという麹(こうじ)納豆を取り出すとさらに盛り上がる。「これ、何?」「日本酒が欲しくなるー」「パスタにしたらおいしそう」。あちこちから次々と突っ込みが入る。

 持ち寄ったおかずはシェアする。そこが魅力の一つだ。市内の50代の主婦は「人に食べてもらえば、おいしい物を作ろうというパワーをもらえる」。この日はメロンとサクランボのデザートをかわいらしいようじ付きで持参した。会社員の女性(33)も「これ持って行ったらどんな反応があるだろう、なんて考えるのが楽しい」と笑顔だ。

 あいにくの雨で市役所1階ロビーに変更された会場には、会社員、市職員、主婦、自営業者ら男女11人が集まった。店で買ったパンや弁当の男性もいる。

 スタートは昨年5月。インターネットの会員制交流サイト、フェイスブックでの呼び掛けがきっかけだ。「市役所の広場をもっと活用したくて。若い世代の『孤食』と(決まったものばかり食べる)『固食』の解消にもつなげたいと思ったんです」。呼び掛け人の一人で会社員の吉田卓人さん(32)が狙いを説明する。

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 多彩なおかずに触れることによって参加者はお互いに触発され、食への関心を高めている。コンビニ弁当で参加していた男性は自作のおかずを披露した。若手の市職員がケーキを焼いてきたこともあったという。自由な発言によってアイデアを出す集団発想法ブレーンストーミングさながらに参加者は食の幅を広げ、意欲を深めている。

 食育が主な目的の集いは異業種交流会の性格も帯び、垣根を越えた出会いの場にもなっている。市職員の男性(32)は「全く関係ない人同士が集まっても不自然さがない。いろんな分野の人が弁当でつながるのは不思議」と、人を呼び込む食の影響力を感じ取る。

 地域に生じるようなある種のコミュニティーの支え合いもある。自作の麹納豆を持参した会社員の女性(36)は「出張先のお土産や頂き物も持って来て、みんなで食べたいと思うんです」。幼稚園帰りの娘と来た主婦(38)は参加者の健康を気にするようになったという。料理学校の講師や食品開発に関わった経験から自分の知識を伝えたいとも思い「疲労回復に効果のあるクエン酸を取ってほしい」と赤しそジュースを振る舞った。

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 こうした“弁当交流”の継続について、食を通じて経済や環境も考える授業「自炊塾」や弁当の日を実践する九州大の比良松道一准教授(農学)は「食べ物を分かち合う『共食』は、人間だけが独自に進化させた集団行動。作った品を食べてほしいという動機には他者の命を支えたいという思いを含む。そのような本能に起因する居心地の良さを参加者が感じているのでは」と分析する。

 単身赴任を終えて岩手県へ帰ることになった男性の最後の弁当の日には、全員が弁当で一文字ずつを分担して送別メッセージを贈った。人を引き寄せる食の力を感じる男性参加者が言う。

 「広場全体が弁当を広げる人で埋まる。そんな場面を想像するだけで楽しい」


=2014/07/09付 西日本新聞朝刊=

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