【こんにちは!あかちゃん 第19部】自治体の役回り 西米良の挑戦<1>限界集落を「桃源郷」に

地元の食材を生かした「四季御膳」を出す上米良省吾さん 拡大

地元の食材を生かした「四季御膳」を出す上米良省吾さん

 女性1人が生涯に産む子どもの推定人数を示す合計特殊出生率。最新データによると、日本は1・43(昨年)だった。そんな中、2002年以降の平均が2・17という自治体がある。九州山地に抱き込まれた宮崎県西米良村。人口約1200人、過疎といわれたムラに何があったのか。現地から報告する。

 お膳のふたを開けた家族連れの顔がパッと華やぐ。「まー、食べるのがもったいないね」。16枚の白い小皿に16種類の料理が盛り付けられている。タケノコの煮しめ、シイタケの南蛮漬け、フキのつくだ煮…。地元の食材でおばあちゃんたちが手作りした家庭料理ばかりだ。

 西米良村小川地区にある観光交流施設「おがわ作小屋(さくごや)村」。福岡市から新幹線とレンタカーで3時間、さらに村中心部から40分のヘアピンカーブを抜けた山里に、村が総工費1億3千万円をかけて整備した。農繁期などに使われた伝統的民家の作小屋で食事ができ、中でも「四季御膳(ごぜん)」が人気の的になっている。

 住民92人の小川地区は10年ほど前まで、高齢化率が7割を超える「限界集落」だった。「作小屋村」は09年にオープン。以来、ムラは変わった。今や年間約2万6千人の観光客が訪れ、地元のお年寄りと話していても元気が伝わってくる。

 《豊かな自然のほかに観光資源がないことを逆手にとり、村は03年から「平成の桃源郷」をイメージした地域おこしを始めた。出生率と観光施設-。一見、二つを実現する施策には距離があるように感じられる。それが実際に小川地区を訪ねると、重なり合って見えてきた》

 今から3カ月前、小川地区にとって十数年ぶりのあかちゃんが誕生した。父親は「作小屋村」で働く上米良(かんめら)省吾さん(28)。地元の出身で4年前にUターンしてきた。

 中学まで過ごし、村内に高校がなかったため麓の宮崎県西都市へ進学。そのまま就職した。古里を離れている間、高齢化は一段と進み、中学の同級生23人もほとんどが村外に出たまま。このままだと帰る場所がなくなるかもしれない。「それでは寂しすぎる。自分に何かできないか」。「作小屋村」の開設を知り、仕事を辞めて戻ってきた。

 上米良さんのようなUターンや移住は、小川地区だけで14人に増えた。当時、上米良さんは妻と生まれたばかりの長男を連れて帰ってきた。若い世代の移住は高齢化率を押し下げ、小川地区は60%を割り込む勢いだ。

 「作小屋村」は現在、15人を雇用し、年間約2700万円の経済効果を生んでいる。市場に出せない少量の作物でも買い入れ、新たな収入源ができた高齢者は「孫に小遣いをやれる」と喜ぶ。昨年には西都市から移住した池田幸代さん(38)も働き始め「西米良で結婚できたら」と笑顔を見せる。従業員からもやっぱり元気が伝わってきた。

 《観光施設で雇用を生み、定住人口を増やすことが、ひいては少子化対策につながる。ただし、ハコモノ行政が頓挫した例は数知れない。小川地区の人たちに接してみると「自分たちの作小屋村」という思いが強く伝わってくる。そこから自治体の役回りが見えてきそうだ》


=2014/07/15付 西日本新聞朝刊=

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