【施設の子の夢支援 スピーチコンテスト】<上>傷ついた人を救いたい

 児童養護施設を“卒業”すると公的支援が途切れ、進学もままならない。この壁を奨学制度を活用して乗り越えようとしている若者たちが6日、福岡市であったスピーチコンテストに臨んだ。虐待や経済的困窮を経験した心の傷に向き合いながらも、将来の夢を力強く語る姿が、そこにあった。

 「今まで親を憎み、大人を嫌って生きてきました。何で俺を捨てたんだ、何のために生きてんだ、と…」

 児童福祉司を目指す専門学校生のユウジさん(21)=仮名=は母親の家出、父親の虐待もあって児童養護施設で育った。高校を中退し、施設も退所して生活が荒れた時期もある。自立援助ホームや里親の元で暮らす中で心を立て直し、定時制高校を卒業した。

 前を向くきっかけは17歳のときに訪れた。夜、レストランで顔見知りだった7歳の少女に再会する。「お父さんがお仕事でおらんけん一人で食べようと」と言って首に提げたポーチからお金を取り出した。その姿が目に焼き付いて離れない。

 「こんな寂しい思いをさせちゃいかん。俺はああいう子を救いたい、守らんといかんと思いました」。少女の境遇を思うと、今もやるせなくなる。スピーチの途中でも声を詰まらせた。「本当は(大人を)責めたい。子どものことを何だと思ってんのかって」

 そんな思いも変わってきた。20歳を過ぎ、自分も大人になった。公的支援がない中で生きる厳しさが身に染みる今、大人にも傷つく理由があるのだと分かってきた。自分もそう。人の顔色をうかがったり、フラッシュバックしたり…。心の傷はまだ癒えていない。

 「傷つく大人も子どもも救いたい。同じ思いをする子をつくらない、つくらせない。すべての人が本当に笑顔になるため、夢を追い続けます」。奨学金で通う専門学校では、子どもの支援団体設立を目指して勉強する日々だ。

 ●同じ境遇の先輩に勇気

 体調の優れない母親が看護師に支えられ、にっこりほほえんだ姿が忘れられない。同時に、白衣に憧れを抱くようになる。リサさん(20)=仮名=に夢が宿った。

 母親は体が弱く、生後間もなく乳児院に預けられた。一時引き取った父親はアルコール依存症。祖母からも虐待を受け、児童養護施設に戻った経験がある。

 18歳、念願だった大学の看護学科に通えることになった。ここまで見守ってくれた施設職員への感謝は尽きない。だが、一人で生きていくとなったとき、不安が募った。社会では施設にいたことが不利に働くのではないか。入学後は「隠すように生きてきました」。

 アルバイトをしないと生活できないが、最近は看護実習が増えてきた。そこで奨学プログラムに応募。施設出身でも胸を張って生きている人たちと出会った。

 「私と同じような境遇でも夢を諦めず、努力している先輩たちに勇気をもらいました。その夢をつないでいきたい」

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 ●一時金と奨学金支給

 スピーチコンテストを主催したのは、民間の奨学金プログラム「カナエール福岡」。児童養護施設などの子の進学率は2割程度で、うち3割がアルバイトとの両立に疲れて中退するといわれる中、市民や企業の寄付で進学を支えている。

 支援者は1口月2000円を寄付し、奨学生に一時金30万円と卒業まで最長4年、月3万円を支給する。スピーチコンテストへの参加は支給条件の一つ。

 カナエールはNPO法人「ブリッジフォースマイル」(東京)が運営。コンテストは東京に続いて九州では初開催で、会場には支援者ら約300人が訪れた。

 問い合わせは、カナエール福岡実行委員会=092(791)4371。


=2014/07/22付 西日本新聞朝刊=

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