【ムラで生き抜く 熊本・槻木の挑戦】<上>一家で移住 再生に力

 九州山地の山深い熊本県多良木町槻木(つきぎ)で、休校していた小学校を再開させるなどの地域再生プロジェクトが進んでいる。70世帯約130人、65歳以上の高齢化率72%の限界集落。「このムラで生き抜く」。その思いで動きだした住民と、それを支える移住者一家。山里の挑戦を報告する。

 「おはようございます! ラジオ体操を始めます」。夏休みに入って間もない7月22日午前6時半。尾根に霧がかかる槻木地区に槻木小1年上治(うえじ)南凰(みお)さん(7)の、あどけない元気な声が響いた。

 集落支援員の父上治英人(ひでと)さん(42)、母美由貴さん(42)、妹紫凰(しお)ちゃん(4)の一家4人が夏場、地区内約10カ所を毎日1カ所ずつ回る「巡回ラジオ体操」だ。初日のこの日、幹線沿いの空き地に住民約10人が集まった。

 携帯電話とラジオは地区内の一部しか入らない。上治さんはラジオ体操の曲を録音したカセットテープを用意。農業を営む槻木千枝香さん(75)は「皆集まってのラジオ体操は久しぶり。朝から元気が出ました」と笑顔を見せた。

 町中心部からつづら折りの山道を約20キロ。槻木は宮崎県境の険しい山あいにある。民家や田畑が点在し、診療所と雑貨店が1カ所ずつ。公共交通機関は朝夕1往復の乗り合いタクシーだけだ。1950年代まで林業で栄え一時約1500人が暮らしたが、木材価格低迷で衰退。後継ぎ世代は職を求め槻木を出た。2007年に槻木小が休校したのを最後に小中学校はなくなり、子どもの声が消えた。

 「圧倒的な大自然の中で子どもがたくましく育ち、家族全員で槻木再生の力になりたい」

 再生プロジェクトを新聞報道で知った上治さんは、福祉施設勤務を辞め、槻木へ。集落支援員として農作業の手伝いや沢水の維持管理、高齢者の診療所への送迎など、あらゆる業務に当たっている。

 上治さんは、高齢者らが自宅でふさぎ込まないようにと、公民館で月2回の健康教室も始めた。78~87歳の男女13人が、南凰さん、紫凰ちゃん姉妹とボールや平行棒を使って運動する。

 うち1人の桜田さつ子さん(86)は、4年前に夫を亡くし1人暮らし。「家でテレビに向かって独り言ばかり言いよった。寄り合う場で友達と話せば、ぼけ防止にもなる。外に出るのが今、楽しかとですよ」

 童話発表会の参観やレクリエーションなど、学校と住民の交流も復活している。娘が休校前の最後の卒業生だった農林業落合龍見(たつみ)さん(55)は「学校のチャイムで、一日の始まりと終わりを地域で共有できている。活動的な上治さんへの住民の信頼、安心感は大きく、身も心もサポートしてくれている」と語る。

 「地域と交わらなかった人が、交流するようになった。住民が動きだすきっかけを、さらにつくっていきたい」。山里に響くこだまのように、上治さんの熱意は、槻木全体を覆いつつある。

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【ワードBOX】槻木再生プロジェクト

 2011年、多良木町から槻木地区の窮状打破への協力を求められた徳野貞雄熊本大教授(農村社会学)の研究室が、全住民を対象に聞き取り調査。約9割が「住み続けたい」と集落存続を選択したのを踏まえ、町と徳野氏は13年度、小学校再開や小規模福祉施設導入による雇用創出を柱とした「再生プロジェクト」に着手した。その一環で町が公募した集落支援員(町非常勤職員)に昨秋、福岡県春日市の介護福祉士上治英人さん(42)が移住して就任。長女が新1年生になった今春、槻木小が児童1人で7年ぶりに再開した。


=2014/08/07付 西日本新聞朝刊=

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