【こんにちは!あかちゃん 第20部】産後クライシスを乗り越える<2>すれ違う心 深まる溝

 出産後、夫婦間の愛情が急速に冷え込む「産後クライシス」。そんな現実を如実に示すデータがある。

 シンクタンク「ベネッセ教育総合研究所」が2006~10年、初めて子どもを持った全国の288組の夫婦を対象に行った調査だ=グラフ参照。「配偶者を本当に愛していると実感する」割合が、第1子の妊娠期から2歳児期にかけて、妻は7割が3割に、夫は7割が5割に。ともに下がっているものの、妻の急減ぶりが目立つ。

 調査に携わったお茶の水女子大学大学院の菅原ますみ教授(発達心理学)は「家事や育児について多くの妻が、期待したほどのサポートを夫から受けられていないと感じている。一方で仕事を抱えながら十分協力しているのに妻からの評価が低いと不満を抱く夫も少なくない」と指摘。愛情急減の一因に夫婦間の気持ちのすれ違いを挙げる。

 福岡市で暮らす団体職員の夫(36)と会社員の妻(31)は5年前、第1子出産後に産後クライシスに直面した。

 「出産がゴール」と思っていた妻。子どもを抱いて夫とほほ笑み合う夢を描いていた。だが、出産翌日に子どもと2人きりで病室に取り残され、現実を知った。泣き続ける赤ちゃんを前にどうしたらいいのか分からない。なのに、仕事帰りに立ち寄った夫は「かわいい、かわいい」のオンパレード。夫へのいら立ちはそこから始まった。

 5日間の入院を終えて帰宅すると、家は散らかっていて、子どもの布団も用意されていない。怒りがこみ上げた。

 子どもを抱っこしたまま立ってご飯を食べたり、ずっと泣きやまず途方に暮れたり。慣れない育児に心も体も疲れた。社会から取り残される不安もあった。それなのに、夫は「育児楽しもうね」と能天気なことを言う。夫が沐浴(もくよく)をさせようとしても、不慣れな作業にイライラして取り上げてしまった。

 しんどさを察してほしかった。いたわりの言葉を掛けてほしかった。でも分かってくれない。夫への愛情は次第に冷めていった。

 一方の夫。初めて病院でわが子に対面したとき、喜びいっぱいで、妻が子どもと2人の時間を恐れているなど想像だにしなかった。退院当日に考えたことは、この記念日を動画に残すこと。携帯電話を構えながら「ただいま」と声を弾ませて玄関のドアを開けたとき、妻がなぜ横たわったまま無言だったのか、全く分からなかった。

 育児の大変さは分かっているつもりだった。「楽しもうね」と声を掛けたのは、前向きな気持ちからだった。いら立ちの原因が自分だとは考えもせず、出産の疲れが残っているだけだと思っていた。だが、1カ月たっても妻は変わらなかった。

 大変そうだと思って家事や育児に関わると、妻はますます不機嫌になった。仕事で疲れて帰ると、これ見よがしにきつそうな顔をされた。そんな日々が続き、いら立ちを抑えきれなくなっていった。「精いっぱいしているのに、なぜ認めてくれないのか」。心の中で嘆いた。

 3カ月たった夜、夫は「もう耐えられない」と打ち明けた。そのとき妻は初めて、夫を傷つけてきたことを知った。夫も初めて妻の苦しい思いを聞き、いら立ちの原因が自分だと分かった。気持ちを伝え合ってこなかった結果、2人の溝は極限まで深まっていた。

 4年後の昨秋。第2子出産から4カ月たったころ、少しずつお互いの思いを言葉にできるようになった。今はまだ回復の途上。妻に育児などの負担が掛かりすぎないよう、夫は細心の注意を払っている。「いつでもクライシスは起こり得ますから」


=2014/08/13付 西日本新聞朝刊=

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