【こんにちは!あかちゃん 第20部 】産後クライシスを乗り越える<3>何となく 体も冷めて

 福岡県に住む30代の有紀さん=仮名=は、会社員の夫とのセックスレスに悩んでいた。

 2年前に双子を出産。育児は想像以上に苦しかった。断乳するまでの1年9カ月、2時間続けて眠れた日はなかった。外出しても双子なのでいやが応でも目立ち、見知らぬ人から掛けられる何げない言葉に憎しみを覚えるほど、心が疲れていた。

 ささいな出来事をきっかけに義理の両親との関係が悪化したことも拍車を掛けた。育児を手伝ってもらう負い目から何も言えず、いら立ちが募った。唯一頼れる存在だったはずの夫は味方になってくれない。仕事が忙しく、育児も家事も当てにならない。恨みが積もっていった。

 セックスにはもともと嫌悪感を抱いていた。その上、育児と義理の両親との不仲で苦しむ毎日。心の支えとなってくれない夫に「なぜご褒美をあげないといけないのか」とさえ思った。

 断乳などによって、ストレスが減り、関係は少しずつ修復していった。それでもまだ、セックスには踏み切れない。求める気持ちがわかないし、子どもが起きてこないか気になって仕方がない。

 「出産後何となく」

 一般社団法人「日本家族計画協会」が2012年に行った意識調査で、セックスレスの既婚男女に積極的になれない理由を尋ねたところ、ともに2番目に多かった回答だ=グラフ参照。東京大学大学院の福澤利江子助教(助産学)が10~11年に産後2年以内の女性を対象に行った調査でも、セックスの回数が妊娠前より減ったと答えた人は約7割だった。出産を境に、セックスレスの傾向が強まっている。

 福岡市で大人向けの性教育講座を行っている藤見里紗さん(37)によると、授乳期の女性は乳房が性の対象として扱われることに嫌悪感を抱くなどの身体的理由に加え、妻の心身の変化に対する夫の不理解や、生活環境の変化によって、夫婦ともに相手の状況への理解が不足し、愛情が減少していくこともセックスレスの一因だという。

 「セックスは母とか父とかいう社会的役割から解き放たれて互いを認め合う行為」。2人の関係のあり方を考えずにセックスレスを放置したり、一方の思いだけでセックスしたりすると、そもそも愛情があって結婚したのに、愛情を持ち寄る関係から離れていく危険があると指摘。「産後は形にこだわらず、気持ちを分かち合うことが大切。まずは相手の話を聞くことから始めてほしい」と助言する。

 有紀さんの夫は、妻の気持ちが向くまで待とうと心に決めた。「妻は育児で手いっぱい。大変だったときに自分が分かってあげられなかったことも、尾を引いていると思うから」

 有紀さんも、セックスはコミュニケーションに必要だと分かってはいる。でも、いざ試みても、うまくいかない。断られて傷ついている夫を見ると申し訳ない気持ちになる。「このままじゃいけない」と思う。

 だが、最近心境の変化があった。取材に答えることで気持ちを整理でき、夫とこれまでのことを話し合った。そうしたら、夫に対する見方が変わった。これまで、いばらの道を1人で歩いていると思っていたが、同じように夫も「母になった妻」にどう接していいか分からなかったのだ。

 「夫にそう伝えると、私が元に戻ってうれしかったんでしょう。おかえり、って」。屈託ない笑顔にはもう夫への恨みは見えなかった。


=2014/08/14付 西日本新聞朝刊=

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