【こんにちは!あかちゃん 第20部】産後クライシスを乗り越える<4>知識不足と「孤育て」と

「孤育て」社会が、子育てをする夫婦の危機に拍車を掛けている 拡大

「孤育て」社会が、子育てをする夫婦の危機に拍車を掛けている

 3組の夫婦を通して産後クライシスのイメージがおぼろげながら見えてきた。ではなぜ起きるのか、複数の専門家に聞いてみた。

 産前産後のフィットネス教室を主宰するNPO法人「マドレボニータ」(東京)代表の吉岡マコさん(41)は、教室に参加する女性たちの話を聞いていて、気になることがある。

 「妻が育休を取っているから自分はゆっくりできる、と勘違いしている夫が多いのではないか」。夫だけでなく妻自身も、心身の変化について、体験して初めて知った場合が多い。双方とも「知識が不足している」と感じる。

 出産のダメージは交通事故並みといわれる。子宮が妊娠前の状態に戻るだけで通常6~8週間。傷自体に加え、子宮の収縮、胸の張りもかなりの痛みを伴う。さらにホルモンバランスの急変により、気分が落ち込んだり不安に包まれたりしがちだ。

 知識が足りないと事前の心構えができず、夫婦で話し合う余裕もなくなってしまう。吉岡さんは「産後の1年は体を回復させるための期間と考えてほしい。家事や育児に専念するための時間ではないことを、夫婦の共通認識として持たないといけない」と訴える。

 「産後の女性が直面する“社会的危機”に夫が気付いていないことも大きい」と指摘するのは、NHKの情報番組「あさイチ」で産後クライシスについて取材した内田明香さん(42)=現岐阜放送局=だ。

 妊娠、出産によって仕事を辞めざるを得なかった女性は、再び仕事を見つけられるのか、先が見えない。育児休業を取得した場合でも、復職後に自分の仕事があるのか不安を覚える。さらに、子どもと2人きりの生活が続くと、どうしても社会から取り残されていると感じてしまう。心も体もつらく、育児のプレッシャーも加わる。出産によって状況ががらりと変わるのに夫はそれに気付かず、妻をいら立たせてしまう、と分析する。

 元「あさイチ」ディレクターの坪井健人さん(33)=現和歌山放送局=は、男性の状況に対する妻の理解不足も付け加える。家事や育児に関わりたくても、職場で「女の尻に敷かれて情けない」と言われる。勤勉の証しとして、長時間労働を余儀なくされる。そんな中で家事や育児を担うのは、労働強化と感じてしまう。「苦しい立場も理解してほしい」と代弁する。

 これらの理由は的を射ているとは思うが、なぜ今、注目を浴びるのか。お茶の水女子大学大学院の菅原ますみ教授(発達心理学)は「孤育て」をキーワードに挙げる。

 現在、子育て中の若い親たちは「少子社会」で育った。子どもと接した経験の少ないまま親になると、総じて子育てスキルが低い。夫婦に掛かるストレスは大きく、お互いに不満がたまっていく。「世は核家族化が進み、地域社会の密な人間関係も薄まっている。“孤育て社会”が、子育て初心者夫婦の危機に拍車を掛けている」という。

 さらに菅原教授は、夫婦観の変化がクライシスを顕在化させたとみる。女性が結婚相手を選べなかった時代は過ぎ、家事や育児は夫婦で関わるべきだという考えも広がった。「非協力的な夫への愛情の低下を表に出しやすくなった」と指摘する。

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 産後の問題に関する知識や理解の不足、なかなか変わらない長時間労働の仕組み、子育てを取り巻く環境の変化…。産後クライシスは複数の要因に、夫婦個別の事情が絡み合って起きているのではないか。


=2014/08/15付 西日本新聞朝刊=

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