【こんにちは!あかちゃん 第20部】産後クライシスを乗り越える<5>夫婦会議で思い伝えて

「夫婦会議を始めてから前よりためこまなくなりました」と話す矢野早苗さん。ボードには話し合いたいことをそれぞれが書き込み、記録はノートに 拡大

「夫婦会議を始めてから前よりためこまなくなりました」と話す矢野早苗さん。ボードには話し合いたいことをそれぞれが書き込み、記録はノートに

 複数の要因が絡み合って起きる産後クライシス。乗り越えることは可能なのだろうか。そう考えていたときに出会ったのが、福岡市で暮らす薬剤師の矢野早苗さん(32)だった。

 矢野さんは2011年、会社員の夫(37)との初めての子を妊娠。翌年双子を出産した。カレンダーに花丸をつけて妻子の帰りを心待ちにしていた夫に、矢野さんは「育児パパ」ぶりを期待した。

 だがいざ子育てが始まると、寝かしつけると言いながら自分だけ寝てしまうし、おむつを替えても1人分だけ。自分に負担がない範囲でやっているだけで、ほとんど眠れぬ矢野さんの大変さは察してくれていないように見えた。

 不満は募る一方だったが、それを口にすることはなかった。そんな夫と話す時間があれば、1秒でも早く眠りたい。話し掛けられても、無言で寝室に行くようになった。半年たったころ、気が付いたら夫婦の間にまともな会話はなくなっていた。

 すっかり冷え込んだ夫婦仲。だが子どもたちは夫が大好きだった。このまま関係を諦めるわけにはいかない。「自分がきちんと気持ちを伝えなくては」。そう思いながらも心に余裕がなく、もがく日々が続いた。

 子どもたちが1歳2カ月になって断乳。数時間続けて寝られるようになり、わずかながらもゆとりが出てきた。思い返してみれば、夫が全く気を使っていなかったわけではなかった。休日に「自分が子どもを見るから出掛けておいでよ」と言ってくれたり、睡眠不足の矢野さんを思って一晩中子どもを見ていてくれたり。「積もった不満でふたをしていただけだった」ことに気付いた。ようやく「面倒くさくても、逃げるよりちゃんと向き合いたい」と思えるようになった。

 そこで、以前の勤務先で取り入れた職場ミーティングを参考に、週1回夫婦会議を開くことを提案した。居間に掛けたボードに、貯金のこと、家族旅行のこと、大掃除の分担など、それぞれが話し合いたいことを書いておき、週末の夜に話し合う。決めたことは「家族ノート」に書き残すことにした。

 夫は「ずっと話し合いたかった」と喜んでくれた。「毎日毎日世界中で私が一番大変なのよ、という顔をしていたよ」と心配そうにつぶやいた。これまですべてを1人で背負っていたつもりだったけど、夫は自分を見つめ、大変さを分かろうとしてくれていたのだ。

 会議を重ねると、素直に言葉が出てくるようになった。議題にあげたことだけでなく、普段の会話も復活した。夫に対する見方も変わった。夫も自分と同じように「家事と育児は女性の仕事」と考えていると思っていたが、話してみると夫はそう思っていなかった。やってほしいことを伝えると、家事にもより積極的に関わるようになった。気持ちが楽になっていった。夫も、自分も、変わった。

 NPO法人マドレボニータ(東京)代表の吉岡マコさん(41)は産後の母親たちと接する中で、赤ちゃんとずっと一緒に過ごしていると人と話す機会が減り、言葉にするのが苦手になりがちだと感じている。「気持ちを言語化すればパートナーに建設的に伝えられる」と母親たちに助言している。

 矢野さんは夫婦会議という場を設定することで頭の中を整理でき、それを冷静に伝えられた。「あのころには二度と戻りたくない。でもあの時期を乗り越えたから、夫婦のつながりは深くなったかな」と話す矢野さん。今、おなかには新たな命が宿っている。


=2014/08/16付 西日本新聞朝刊=

PR

PR

注目のテーマ