【命を守る 虐待根絶へ】子どもの犠牲防ぐには 福岡のフォーラムから<上>大阪2児放置死 ルポ 杉山春さん講演 SOS出せる社会に

親が助けを求めやすい社会の必要性を訴える杉山春さん=5日、福岡市 拡大

親が助けを求めやすい社会の必要性を訴える杉山春さん=5日、福岡市

 ●「母性神話」も足かせに 
 子どもが犠牲になる悲惨な児童虐待事件が後を絶たない中、防止策を探る市民フォーラムが5日、福岡市・天神のエルガーラホールで開かれた。テーマは「SOSを出せる地域」。虐待をする親は、育児に難しさを感じていても、親戚や友人、行政機関に助けを求めず抱え込んでしまう傾向があることから、周囲がどう受け止め、支えていくべきかを話し合った。フォーラムの模様を2回にわたって紹介する。

 2010年、大阪市のマンションで母親に置き去りにされた3歳と1歳の姉弟が餓死するという事件が起きた。基調講演では、この事件を丹念に追った「ルポ虐待」(ちくま新書)の著者、杉山春さん(56)=川崎市=が母親の成育歴にスポットを当てた。

 母親は幼い頃、実母が家出し、ネグレクト(育児放棄)されていた。実父は高校ラグビー界の名監督で地域の期待を背負う一方、家庭での存在は薄かった。長女だった母親は妹たちの面倒をよく見たが、実父の再婚、再び離婚を経て、中学に入って非行化。レイプされた際も少年院で「解離性の人格障害の疑いがある」と指摘された際も、適切なケアを受けられなかった。そうした環境の下で「自尊感情が低く、嫌なことがあると直視せずに逃げ出すことで自分を守る子になっていったのではないか」と杉山さんは指摘する。

 アルバイトで知り合った男性と結婚、2児を出産後に浮気した際、義父母らが参加した「家族会議」で離婚が決められたことにも杉山さんは言及。「子どもは責任を持って育てます」「家族には甘えません」などとする「誓約書」を書かされ、夫からの養育費支払いがなかったことなど、母親を追い詰めていった背景にも触れた。「母親であれば子どもを育てられるはず、という母性神話もすり込まれ、そこにとらわれ、SOSを出せなくなっていった」(杉山さん)。そして子育てという現実から目を背けた結果、事件は起きた。

 杉山さんは、マンション前で花を手向ける人たちを取材し「一歩間違えれば自分も、という思いの女性がたくさんいた」と明かす。「弱みや情けないところを見せると、社会から落ちこぼれるかもしれないという恐怖感が今の若い人たちにはある。弱みを見せてもいいんだよという社会にしなければいけない。兆候を見逃さないためにネットワークによる支援が不可欠」と学校や地域、行政による連携の必要性を訴えた。

 ●虐待相談最多4528件 昨年度 九州

 厚生労働省のまとめでは、九州の児童相談所が2013年度に対応した児童虐待の相談件数は前年度比6%増の4528件で過去最多。全国では7万3765件に上った。

 福岡市によると、寄せられた相談535件のうち虐待と認定したのは415件。相談者の3分の1が近所の人や知人で、警察(20%)、学校(9%)と続いた。虐待者の3分の2が実母。虐待の対象は小学生以上が6割を占め、年々増加傾向にあった。

 相談件数が前年度の2・4倍で47都道府県中、最高の伸び率だった鹿児島県は「身体的虐待を受けた子のきょうだいも心理的虐待を受けているとして厳密にカウントした」と説明。杉山春さんは「相談の増加は、窓口の充実や、多くの人が虐待問題に関心を寄せるようになった表れでもある」と話す。


=2014/08/23付 西日本新聞朝刊=

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