博多ロック編<218>CDめぐる物語

「フルノイズ」と川野(中央前列) 拡大

「フルノイズ」と川野(中央前列)

 福岡市・警固に居酒屋「Hi(ハイ)-Psy(サ イ)」がある。店主の川野隆之はCD「フルノイズ82」を店内でよく流す。有住壽一が1982年に録音した博多のロックバンド「フルノイズ」のライブ盤だ。2001年にインディーズ盤としてリリースされた。

 川野は2010年のある日もこのCDをかけていた。

 「フルノイズのファンはいまでも多いです」

 このときは客のリクエストでかけていた。

 そこにふらりとミディレコード(東京)の大蔵博が入ってきた。入ってくるなり大蔵は興奮気味に言った。

 「いいね。このバンドは?」

 川野は答えた。

 「フルノイズです。30年前の録音です」

 「これをうちから出したい」

 「フルノイズ82」は同じジャケットデザインで11年、ミディレコードから再リリースされた。有住が自主的に録音した「フルノイズ」のライブは約30年後に人のつながりを経て全国発売された。

 ×   ×

 川野は一時期、「フルノイズ」のマネジャー役をしていた。「フルノイズ」はその母体である「春風馬亭」の時代から注目していた。さまざまなバンドのライブにも顔を出していたロック通の川野にとって「フルノイズ」は「すごい」の一言だった。

 「博多ロックにある縦社会や派閥とは一定の距離を置いていた」

 それは乱暴に言えば「脱サンハウス」ともいえるかもしれない。井上マサルのストレートな歌詞に、ロック、ブルース、ブギなどを取り入れた自由でしっかりしたサウンド。ファンは「ヒッピーから暴走族まで」というのは「フルノイズ」の魅力の一端を示している。

 大蔵が「出したい」と思ったのも歳月の中で風化しない、現代でも通用するサウンドを感じたからだろう。

 代表曲の一つ「涙のアリス」はラブソングだ。

 〈涙の池でアリスは溺れそうだ いくら手繰り寄せても アリスの目は濡(ぬ)れてるんだ〉

 博多ロックの絶頂期の1982年に若者向けのファッションビル「天神ビブレ」がオープンする。川野によれば、「涙のアリス」は「天神ビブレ」のオープン記念のテレビCM曲としても流れた、という。

 埋もれていた録音テープの発見から「フルノイズ」の物語は続いている。

 =敬称略

 (田代俊一郎)


=2014/09/22付 西日本新聞夕刊=

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