【子どもの貧困を考える】連鎖を断つには<上>「持たざる子」は奪われる

ある小学校の校長のロッカーには、おなかをすかせた子どもに食べさせるレトルト食品が常備されていた 拡大

ある小学校の校長のロッカーには、おなかをすかせた子どもに食べさせるレトルト食品が常備されていた

 ■新訳男女■ 
 ごとっという音とともに、小4の拓也(10)がひな壇から落下した。11月初旬、発表会に向けて歌の練習をしていた九州のある公立小学校でのこと。拓也は空腹と睡眠不足でふらついたようだった。

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 両親は正社員だが低賃金の“名ばかり管理職”。サービス残業が多く、朝は拓也が起きる前に出勤し、夜は寝静まってから帰宅する。身の回りの世話もしてもらえず、遅刻や欠席、忘れ物が多い。授業も集中できず、学力テストの結果は学年で最下位だった。

 父親が失業し母親がパートで働きづめ、生活保護費を10日ほどで使い切る、ドメスティックバイオレンス(DV)から逃れるために離婚し母親が仕事を掛け持ち…。そんな貧困家庭の子どもは、時間通りに登校しないことが目立つ。

 校長は毎朝校門に立ち、チャイムの後にのろのろとやってきた子どもに声を掛ける。「よう来たね、朝ご飯食べた?」。首を振る子には、保健室に自前で常備するバナナを食べさせる。空腹を満たすだけが目的ではない。「『どうせ自分なんて』と思っている。自分が大事にされている体験が必要なんです」

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 貧困が子どもたちに及ぼす影響は空腹だけではない。生活環境の整った子どもは、運動や学習面などで称賛され、成功体験を積み重ねる。逆に家計が苦しく、文具がそろわない、同じ服ばかり着ている、時間通りに家を送り出してもらえないなど、満たされない体験を繰り返す貧困世帯の子どもは、自己肯定感や生きる意欲を奪われていく。

 格差がさらに格差を呼ぶ-。この現象は「マタイ効果」と呼ばれる。「持っている人は与えられて、いよいよ豊かになるが、持ってない人は、持っているものまで取り上げられるであろう」。新約聖書「マタイによる福音書」の一節から名付けられた。持たざる子はますます奪われる。「戦後はみんな貧乏だった」「我慢が足りない」などの自己責任論や根性論では解決できない深刻な問題だ。

 一見、貧困とは思えない世帯にもその影は潜む。遠足を迎えた別の小学校。美奈(小2)は、夜遅くまで外出していた母親に弁当を頼めず、自分で米を炊いておにぎりを1個作ってきた。電子レンジの使い方が分からず「ミートボールはだめやった」。級友がキャラクターをかたどった華やかな弁当をほおばる中、アルミホイルに包んだ味付けのないおにぎりを食べた。

 なんて親だ、となじりたくなる人も多いかもしれない。だが、福祉関係者はこう語る。「親自身も貧困家庭で同様に育ち、子どもへの教育や身の回りの世話をするという感覚がない例が多い」 (文中仮名)

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 平均的な所得の半分以下で暮らす。こうした「貧困」世帯の子どもは、日本では6人に1人にも上る。政府もこの問題に目を向け始め、昨年「子どもの貧困対策推進法」が成立、今夏には大綱がとりまとめられた。11月は児童虐待防止推進月間。虐待のリスクも高めるといわれる「子どもの貧困」の現状と、その連鎖を断ち切る取り組みを追った。


=2014/11/15付 西日本新聞朝刊=

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