【自由帳】35人学級見直し 現場の悲鳴 聞こえるか

 財務省が、公立小学校の1年生で導入されている「35人学級」を見直し、1学級40人体制に戻すよう文部科学省に求めた。「教育上の明確な効果がみられず、別の教育予算や財政再建に財源を振り向けるべきだ」というのが理由だ。学校現場の教員たちは、この動きをどう見ているのか。福岡県内のある小学1年生のクラスを訪ねた。

 少々私語が多く、ざわつきも見られるが、元気なクラスに見えた。だが、担任の女性教諭(52)は「いやーっ、1学期は大変でした」と打ち明ける。

 児童数は学級定数上限の35人。新学期、5人の児童が泣きながら登校してきた。「ママがいない」と、校舎玄関で座り込んだ。授業を始めても、何人かは席を離れてうろうろ。授業以前の生活指導が求められる児童が、その教室には10人近くいた。

 発達障害と診断された児童1人は、親とも話し合い、特別支援学級へ。授業中に床に寝そべる児童もいた。担任は「叱る」のではなく、「起き上がるまで待ってあげよう」と級友同士の声掛けを促し、クラスを立て直していったという。

 取材に訪れた日の給食はカレーだったが昼休み、最後の一さじを前に、教室には児童2人が残った。「一つのことをするにも、時間がかかりますからね」(担任)。このクラスが40人規模だったらどうなったか。

   ☆   ☆

 「担任がいつ倒れるか、心配していた」。同校教頭(56)はそう振り返る。

 幼稚園や保育所から上がってきた小学1年生が、学校生活になじめず、騒いだり、動き回ったり、学級崩壊に陥る「小1プロブレム」。程度の差こそあれ、どの学校も抱える。その言葉は1990年代後半から使われ始めた。

 教頭が教育現場の異変を感じ始めたのはそのころからだ。「あの先生なら大丈夫。その先生が倒れ始めた」。だから、今回のケースも心配した。

 「5人の違いは大きいですよ」と教頭は言う。というのも、児童数35人以下の学級でスタートしたとしても途中、都市部では転入生が加わり、学級規模が膨らむケースが少なくないからだ。転入生もいろんな問題を抱えている。

 こうした実情を踏まえ、目配りの指導のため、教頭は小学1、2年生には「30人学級」が必要と考える。担任も同じ意見だ。

   ☆   ☆

 算数の問題なのだが、数字のマジックも感じる。

 この学校の1年生は133人。35人学級が導入されているが、仮に40人学級を導入しても、4クラス編成は変わらない。その一方、5年生(122人)は40人学級が導入されているが、4クラスの各児童数は30、31人。35人学級の1年生より、40人学級の5年生の方が学級規模は小さいのだ。

 一般的には、小学5、6年生の高学年では「多様な価値観の学び合い」のため、低学年より学級規模を大きくした方が教育効果は高いとされる。だが、いじめ、不登校、中学校への接続を考えると、教頭は「必ずしもそう割り切れない」とも。高学年にも少人数学級が求められる、もう一つの現実があるという。

 財務省が主張する「40人学級復活」の根拠は、全国学力調査など統計データに基づき、主に「学力向上の改善効果が薄い」というものだ。だが、学校現場が少人数学級を求めているのは、こうした学級運営、秩序を守るための悲鳴だ。官僚と現場の「感覚の落差」を痛感する。

    ×      ×

【ワードBOX】学級規模

 1クラスの学級規模(児童生徒数の上限)は、義務教育標準法で定められている。公立小中学校の学級規模は1964年度から5年かけて50人から45人に、80年度から12年かけて40人へと、縮小されていった。

 民主党政権下の2011年度からは法改正により小学1年生で、翌年度からは教員の追加配置(加配)で2年生で「35人学級」が一律導入された。文科省は小中学校で35人学級を増やしたい考えだが、自民党への政権交代に伴い、計画が揺らいでいる。

 01年の法改正に伴い、教育委員会判断により、自由裁量の特例学級編成が可能に。現実には小学1、2年生以外でも35人以下の少人数学級を導入している学校は少なくない。

 少人数学級導入のネックになっているのは、学級数の増加に伴う教員確保。教員給与の3分の2は都道府県が負担することから、財政事情もあり、多くの自治体が非常勤講師など非正規の教員増で対応している面もある。


=2014/11/18付 西日本新聞朝刊=

PR

PR

注目のテーマ