【子どもの貧困を考える】連鎖を断つには<下>幸せな子増やす政策を 国立社会保障・人口問題研究所 阿部彩さんに聞く

「35人学級を40人学級に戻す議論も、子どもの貧困対策の観点から見ると逆行している」と語る阿部彩さん 拡大

「35人学級を40人学級に戻す議論も、子どもの貧困対策の観点から見ると逆行している」と語る阿部彩さん

 ■新訳男女■ 
 年々深刻化する「子どもの貧困」に対し、私たちは何ができるのか。子どもの貧困問題に詳しい国立社会保障・人口問題研究所(東京)の社会保障応用分析研究部長、阿部彩さんに聞いた。

 2012年の子どもの貧困率は過去最悪の16・3%。最近の問題のように思われていますが、バブル経済に突入する1985年の段階で10・9%あり、社会全体の貧困率より速いペースで伸びています。

 貧困が恐ろしいのは物質的困窮や学歴の格差だけではありません。ストレスにあふれた家庭は子どもの健やかな成長を阻害します。学力が上がらない、衣服が古いなど、こうした状況がいじめにつながり自己肯定感は傷つけられる。貧困によって子どもはダブルパンチ、トリプルパンチを受けるのです。

 国は子どもの貧困対策推進法に基づき大綱を作成しましたが、新しい案はスクールソーシャルワーカーの充実くらい。大綱があるために、これ以上の政策ができない可能性もあります。

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 子どもの貧困を改善するには、ワーキングプア(働く貧困層)の問題など、親の労働環境の改善が重要ですが、問題が大きすぎて時間がかかる。次善の策として、母子家庭や乳幼児のいる世帯への現金給付が有効です。母子家庭の貧困率は5割を超え、経済協力開発機構(OECD)諸国でも最悪。また乳幼児期の子どもには貧困の影響が色濃く表れるといわれています。

 子どもの貧困対策のメリットを2010年に試算しました。A君が20歳から65歳まで正社員として就労した場合、支払う税金・社会保険料は4500万~5100万円。逆に同期間、生活保護を受けると総額5千万~6千万円となる。つまり、1人の子どもを貧困から救えば1億円の便益になります。少子化対策で子の数を増やすより、貧困対策で幸せな子の数を増やす方が、国益になるのです。

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 好景気の恩恵がしずくのように低所得層にしたたり落ちて浸透する「トリクルダウン理論」は先進諸国には当てはまりません。どの国もGDP(国内総生産)が上がっても、最貧層の勤労所得は上昇しないことが分かっています。

 財政難のもと、新しい政策を導入するには、法人税を上げるほかに中間所得層の負担も必要ですが、子どもの貧困については深刻さが国民に受け入れられていません。「一億総中流」といった神話が今も信じられているからです。もっと子どもの貧困について語り合い、ムーブメントを起こし政策に反映させることが重要だと思います。

 ▼あべ・あや 国際連合、海外経済協力基金を経て1999年、国立社会保障・人口問題研究所に入所。貧困や社会保障の問題などを研究し、著書に「子どもの貧困~日本の不公平を考える」「子どもの貧困2~解決策を考える」(岩波新書)などがある。

 【ワードBOX】子どもの貧困率

 世帯の手取り年間所得を世帯人数で調整し、「中央値」(真ん中の順位の世帯所得)の半分を貧困線(2012年は122万円)に設定。貧困線未満の世帯で生活する17歳以下の割合が、子どもの貧困率となる。阿部さんの推計では、前回調査の09年(15.7%)の段階で約326万人いるという。 


=2014/11/29付 西日本新聞朝刊=

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