【和食力】だしが人生変えた かつお節削り 食豊かに 福岡の山本さん

おだしの会で参加者と一緒にだしを取る山本美奈子さん(中央) 拡大

おだしの会で参加者と一緒にだしを取る山本美奈子さん(中央)

手のひらサイズのかつお節削り器

 削りたてのかつお節とみそ、それにネギとショウガを少々入れた紙コップに熱々のお湯を注ぐ。箸で混ぜて待つこと1分。口に含むと思わず笑みがこぼれる。かつお節の風味とみそが溶け合い、味わい深い。「1人暮らしの朝ご飯にぴったりですね」。感嘆の声が会場から漏れた。

 今月初旬、福岡県福津市津屋崎の古民家に若者や親子連れ12人が集まった。和食の基本であり、最も重要とされるだし。その取り方を学ぶ「おだしの会」だ。主催した山本美奈子さん(33)=福岡市東区=が「頑張らない程度においしくだしを取る生活を」と呼び掛けた。傍らにはいつものかつお節のミニ削り器(長さ12センチ)があった。

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 大学を卒業して入った会社では営業に追われ、食事はコンビニとハンバーガー店で済ませる毎日。ある日、体中にじんましんが出た。「食べ物の影響かな」と不安を覚えた。

 料理の基礎を学ぼうとインターネットで見つけた講座でだしの取り方を教わった。「だしは顆粒(かりゅう)から作るんじゃないんだ」と初めて知った。だしのうま味は体の隅々まで染みわたった。

 知人のおだし教室にも足を運んだ。1歳の女の子が紙コップのだしを飲み干し、次を必死に欲しがる姿に「だしにはこんな力があるんだ」と胸に残った。

 数日後、自宅に届いたのがミニ削り器だった。送り主は、その教室で講師を務めた的場真美さん(43)。鹿児島県枕崎市のかつお節メーカー「的場水産」の若おかみだ。削り器は土産物として会社案内に掲載。教室でそれを見つけて関心を示した山本さんに贈ってくれたのだ。

 「これは受けそう」と、かばんから化粧ポーチを取り出して削り器を入れた。大学職員の仕事用とは別に「削ラー普及委員会」の名刺も作った。訪れた飲食店でかつお節を削って料理に加えると味が引き立つ。周囲の客は「何それ? どこで買えるの」と尋ねてきた。ミニかつお節セットで3100円、3個以上で送料無料。説明すると注文が次々とまとまった。あれから2年、間もなく200個になる。

 「かつお節を削る暮らし」は消えかけていると思う。次の世代にも伝統を引き継ぎたい。だしの力がくれる「楽しくおいしい」食のある暮らしを体験してほしい。どこでも気軽に楽しめる削り器がきっかけになれば。そんな思いできょうも持ち歩く。

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 食生活が変わって大学時代の友人らから、やせたねと言われる。「悪霊が退散したみたいと言われたときは、そんなにとげとげしい性格だったのかと反省した」と笑う。確かに穏やかになった自分を実感する。

 素材のおいしさを引き出すだしを知って、作り手の顔が見える野菜を買うようになった。家の定番料理は蒸し野菜だ。手作りのポン酢に付けて食べる。それにみそ汁とぬか漬け。一つ一つの素材を大切に味わう。食事の時間をただ単に消化するのではない。実りある時間としてほっこりとかみしめる。「だしと出会って人生が変わったなあ」

 6月、現在の職場を辞める。豊かな食卓につながるような商品を届ける店を開く予定。もちろんミニ削り器も並べる。

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 和食ブームという。2013年12月に国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録されて1年余り。自然の素材を生かす技や伝統文化と一体になった奥深さなど「和食の力」を味わう。

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【ワードBOX】和食

 世界文化遺産に登録されたのは伝統文化としての和食。登録に向けて中心的役割を果たした熊倉功夫・静岡文化芸術大学長によると、形式的には一汁三菜を指し、ご飯、汁、御菜(おかず)、漬物の四つが基本的な献立。季節感、器、椀(わん)と箸の文化なども含まれる。和食=日本食について「日本人が作って日本にしかないもの。その意味ではカツカレーもオムライスも和食」と語る専門家もいるが、専門店の「日本料理」と区別している。


=2015/02/25付 西日本新聞朝刊=

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