【和食力】漬物 四季の恵み熟成 「日本一」を獲得 熊本の尾崎さん 地域の食材生かす

ツワブキの皮をむく尾崎吉秀さん 拡大

ツワブキの皮をむく尾崎吉秀さん

ツワブキのみそ漬け

 「寒い時期のツワブキは皮をむきにっかもんね」。包丁で端に切り込みを入れ、両端をじわりと曲げながら、そろりと皮をはぐ。家の軒先で尾崎吉秀さん(79)=熊本県芦北町田浦=の手が規則正しく動く。

 春の兆しを感じる2月下旬。暖かくなると、みそは冬眠を終えるように次第に目を覚まし、うま味成分が野菜に染み込んでいくという。この時期は漬け込みに最適。連日、野菜の陰干しや下ごしらえで、作業は深夜に及ぶこともある。

 漬物作り約30年。十数種類の熟成を見極めながら出荷する「ひでじい」の漬物は、町内の道の駅とJAの物産店に並ぶ。

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 経営していたスーパーの残った野菜を生かそうと思ったのがきっかけだった。どんな漬物がいいのか。近所の家々は自家製のみそ漬け。昔ながらの発酵食品にひかれた。健康にもいい。これしかないと思った。

 九州産の原料を選んで作るみその味、漬け込みの時期や野菜を替えて試行錯誤を繰り返す。思い通りの味にならず、たるごと捨てたこともあった。「味が乗ってない」「熟成が足りん」。味を確かめる妻光乃さん(76)とけんかしながらの二人三脚だった。

 「漬物は息をする。野菜は水分を出し再び吸って、みそのうま味を取り込む。3回繰り返して、ようやくおいしくなる」。10年を過ぎてようやく見えてきた。

 自慢の漬物を手に旅に出るようにした。宮崎県の山村、鹿児島県の海沿いの町など行く先々で地域の食に出合う。北海道で見つけたサケを白菜で挟んだ漬物は、昆布入り白菜の浅漬けに姿を変えた。沖縄の石垣島で知り合った人から届いた特産の瓜(うり)「モーイ」も数カ月後、漬物にして贈った。

 各地で触れた食文化と地域に息づく味が漬物に溶け込んだ。

 地元産ショウガを最長1年半漬けた「生姜(しょうが)のべっこう漬」は2014年2月、漬物日本一決定戦T-1グランプリで見事、グランプリを獲得した。

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 古来、保存食の漬物は奈良時代の木簡に最初に登場する。和食の基本「一汁三菜」でも香の物として暗黙のうちに付く、欠かせないものだ。食物繊維と善玉菌がもたらす整腸作用によって健康効果も期待できる。善玉菌を増やす乳酸菌は、ぬか漬けや高菜漬けなどの発酵漬物では100グラム当たり100億個で、乳酸菌飲料と同程度という。宮尾茂雄東京家政大教授は「やや酸味の出たぬか漬けは効果が大きい」と話す。

 尾崎さんはこれを「五臓が喜ぶ」と表現する。「日本には素晴らしい四季がある。それが作り出す野菜を漬物にしたい」。自然と地域を味わう和食の姿がそこにある。

 「みそと一緒に食べなっせ」。そう勧められたツワブキの漬物を口に含んだ。みその香りと野草の風味が口いっぱいに広がり、じわっと唾液があふれた。半年前に皮をむく様子を想像し、受け継がれる先人の知恵に思いをはせた。

 「和の原点が漬物」。尾崎さんの情熱とノウハウは長女、馬淵めぐみさん(43)に引き継がれる。一緒に参加する食イベントは情報収集の場でもある。7、8日にはグランメッセ熊本(熊本県益城町)での「くまもと県南フードバレーフェスタ」に出店する。来場客とどんな漬物話ができるのか楽しみにしている。

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【ワードBOX】漬物

 全日本漬物協同組合連合会(約千社)によると、市販の漬物は消費者の健康志向に対応して1990年代から低塩化が進み、現在は食塩1グラムで食べられる漬物の量の目安は白菜漬け50グラム、干したくあん30グラムなどとなっている。常任顧問の前田安彦宇都宮大名誉教授によると、近年の市販品は調味液に漬けて発酵を止めた浅漬けタイプが主流で、野菜の食物繊維や健康成分による健康効果をアピールする。中堅以上の業者は浅漬けとキムチが生産量の約6割を占める。一方、各地の農家などが特産物を昔ながらの漬け方で商品化する例も多いという。


=2015/03/04付 西日本新聞朝刊=

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