<5>万人に好まれなくても こむらさき(鹿児島市)

オープンキッチンで2種類のスープを丼にそそぎ、味を調える橋口芳明さん 拡大

オープンキッチンで2種類のスープを丼にそそぎ、味を調える橋口芳明さん

鹿児島市東千石町11の19。鹿児島産黒豚チャーシュー入り950円。午前11時~午後8時半。定休日は第3木曜日。099(222)5707。

 万人が好む味か、と問われると答えに窮する。

 私はおいしくいただいた。中央に盛られた千切りのキャベツが弾力ある白っぽい蒸し麺と絡み合い、食感は心地よい。ぶつ切りにした黒豚のチャーシューも一緒に口に運ぶと味に深みが増す。鶏がらやシイタケを隠し味にした、薄めの豚骨スープとの相性もいい。だが例えば、脂っこい博多や久留米のラーメンを食べ慣れた人にはどうだろう。麺もスープも少し物足りなく感じるかもしれない。

 こちらの戸惑いを見透かすように、店主の橋口芳明さん(72)が口を開いた。「10人が10人とも『おいしい』と言わなくてもいい。目指すのは、そんな個性的なラーメンだから」

 鹿児島市の繁華街、天文館にある「こむらさき」。平日の昼、厨房(ちゅうぼう)をコの字で囲むカウンターは会社員や買い物客で埋まっていた。その様子を眺め、ふと気付いた。食べ方にある特徴があるのだ。

 箸の先で数本の麺をつまむ。それをレンゲですくい、すぼめた口に運ぶ。もちろん個人差はあるが、少なくとも大量の麺をズズーッとかき込むような人はいない。良くも悪くも、そんな食べ方を拒むようなラーメンなのだ。

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 「こむらさき」の創業は1950年。空襲の焼け野原で小さな食堂を営んでいた橋口さんの母、フミさん(93)が台湾出身の「ラーメン職人」を迎えて開店したのが始まりだ。

 王鎮金さん(故人)という。ただ「ラーメン職人」というのは偽りで、もともとは日本統治時代の台湾の官僚だったそうだ。戦後の混乱期に来日し、糊口(ここう)をしのぐためにそう名乗ったらしい。

 当初は「3カ月の手伝い」の約束で入った厨房で、王さんはラーメンづくりに没頭。キャベツの千切りのトッピングや、台湾のそばを参考にした蒸し麺など「こむらさきラーメン」の原型をつくりあげた。やがて戦地で夫を亡くしたフミさんと結婚し、店を切り盛りするようになる。

 橋口さんにとって王さんは義父にあたる。「最初にうそをついてしまったからこそ、必死だったんでしょうね。私が知る義父は研究熱心で厳しい人だった」。当時は珍しかったオープンキッチンも「客から隠れて作るようでは清潔感が保てない」という王さんのアイデアだ。

 実は、このオープンキッチンにこむらさきラーメンの味の秘密がある。カウンターに囲まれた厨房には味付けが異なる2種類のスープが用意されている。この二つを丼に注いで味を調えるのだが、カウンターの内側から客を観察し、好みに合うよう割合を加減しているのだいう。

 「関西から来た人は少し甘めに、スポーツで汗をかいた人には少し塩辛く、というふうにね」

 独自の味にこだわる武骨さと客の好みに気配りする細やかさが、士魂商才の伝統が息づく薩摩の地で長く愛された理由なのだろう。 (山本敦文)


=2014/11/20付 西日本新聞朝刊=

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