<10>肥後もっこすのこだわり 桃苑(熊本県玉名市)

厨房でスープの出来を確認する井本弘之さん。手前の麺切り網は手作り 拡大

厨房でスープの出来を確認する井本弘之さん。手前の麺切り網は手作り

熊本県玉名市繁根木。ラーメン600円。チャーシュー麺880円。替え玉120円。午前11時~翌日午前1時(日祝日は午後11時)。定休日は原則火曜日。0968(72)2575。

 ラーメンのクライマックスは、食べ終える間際に訪れる。九州有数のラーメンどころ、熊本県玉名市で思い知った。

 玉名ラーメンと言えば濃厚な豚骨スープに中太麺、そして焦がしニンニク。このトッピングは作り方で2種類に大別される。乾燥させた生ニンニクを油で揚げる方法と、フライパンなどで煎(い)る方法だ。市内に十数店舗を数えるラーメン店の間でも流儀は分かれる。

 桃苑は後者を使っている。「油で揚げたニンニクはスープに浮かぶが、煎ったニンニクは沈む。こっちの方がニンニクの風味がスープに染み込み、最後の一口が格別なんだ」と店長の井本(いのもと)弘之さん(61)。

 湯気とともに立ち上る香りが食欲をそそる。茶褐色のスープは口当たりあっさり。やがて豚骨のうま味が舌に染み込んでいく。もっちりとした麺は短め。自家製のチャーシューや有明産のりが味に深みを加える。

 「豚骨はゲンコツ(足関節)と背しか使わない。これが一番うまい」。大きな目。太い唇。いかにも頑固一徹の「肥後もっこす」といった面持ちだ。

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 玉名市にラーメンがもたらされたのは1952年。久留米ラーメン「中華そば三九」の出店がきっかけだ。同店は4年後に閉店するが、ここで豚骨ラーメンの調理方法を学んだ職人が次々と独立。近郊はノリ養殖が盛んで、海の作業を終えた人々が凍えた体を温めようとラーメンに飛びついた。焦がしニンニクという独自の文化も、精がつく食を求める労働者の支持があったからだろう。

 桃苑も井本さんの父、利光さん(故人)が「三九」で修業した親類に作り方を教わり、63年に開店。市内のラーメン店は70年代の最盛期には30店近くを数えたという。それだけに、舌が肥えた客も多い。

 井本さん自身、ヒヤリとした経験がある。スープを一口すすった常連客から「いつもより塩気が足りない」と指摘された。スープに使うしょうゆを地元産に変えていたのを見透かされた。慌てて取引先から取り寄せた10種類の塩をブレンドして従来の味に近づけた。

 中学時代から出前を手伝い、この道四十数年。「難しい。その日の天気によっても変わる。ラーメンは生き物だから」-。

 麺を食べ尽くし、最後にどんぶりの底に残った一口分のスープ。軟らかくなった焦がしニンニクと骨粉が沈んでいる。「ずんどうは使わない。釜で炊くんだ」。骨粉は、豚骨を強火で短時間に炊きあげた証しだ。

 どんぶりを持ち上げ、最後の一口を流し込んだ。ニンニクと豚骨の凝縮が胃袋に染みていく。それは「ラーメンを食べた」という満足感を伴う味だった。 (山本敦文)


=2015/02/19付 西日本新聞朝刊=

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