<11>おしどり夫婦、優しい一杯 一竜軒(佐賀県唐津市)

厨房に立つ宮崎真一さん(左)とミツ子さん夫婦。ミツ子さんは昨年末に店の手伝いを辞めたが「週に何回かはラーメンを食べにきます」 拡大

厨房に立つ宮崎真一さん(左)とミツ子さん夫婦。ミツ子さんは昨年末に店の手伝いを辞めたが「週に何回かはラーメンを食べにきます」

佐賀県唐津市菜畑4070の2。ラーメン550円。チャーシューメン650円。おにぎり一皿120円。午前11時半~午後3時、定休日は水、日曜日。0955(75)3455。

 日本最古の稲作跡として知られる菜畑遺跡(佐賀県唐津市)のほど近く。客足に決して恵まれた立地ではないが「一竜軒」はこの地で20年以上にわたって親しまれてきた。店を切り盛りしているのは宮崎真一さん(76)。聞けば意外な“師匠”がいるという。妻のミツ子さん(75)だ。

 佐賀県伊万里市出身のミツ子さんがラーメンと出合うきっかけは親戚の一言だった。55年ほど前、唐津にあった親戚の甘味どころを手伝っていたミツ子さんはこう頼まれた。「ラーメン屋を始める。作り方を習いにいってくれんか」

 修業先は福岡県大牟田市の「光華園」。豚骨と鶏がらを使ったスープの作り方を頭にたたき込み、厨房(ちゅうぼう)、釜の寸法も測った。3カ月間の修業を終えた1960年、同県福間町(現福津市)の国道沿いに「ここや」を開いた。当時は車社会の夜明け前、福岡-北九州間の交通量の増加とともに客も増え、店は繁盛した。

 開店から5年後、ミツ子さんは真一さんと出会う。結婚し、自分たちの店を持つことにした。「北九州の常連さんから『北九にきない』って何度も言われた」こともあり、場所は北九州市の南小倉駅近く。屋号を「一竜軒」とした。真一さんも“師匠”を支え、行列が絶えない人気店に。当時を振り返り、2人は「学校帰りの息子もお客さんから『列に並べ』と言われたほど」と笑う。

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 北九州での生活は89年に終わりを告げた。激務がたたり、ミツ子さんが体調を崩したためだ。店をたたみ、真一さんの古里である唐津に帰った。

 2年半ほど夫婦水入らずの生活を送っていたが、2人にはラーメンしかなかった。今度は真一さんを中心にミツ子さんが厨房を支える形で現在の場所に店を構えた。

 「最初は数年の予定でしたが、北九州から店を見つけて来てくれる人もいるので辞められなかったんですよ」

 そう語る真一さんが作ったラーメン。表面に脂が浮くがラードなどは加えていないという。褐色のスープをれんげですくう。一口すすると最初は豚骨の香ばしい風味が一気に広がり鼻を抜ける。濃厚で力強い味わいだ。一方で別の風味が後から追いかけてくる。鶏がらを混ぜているからだろうか、まろやかさが舌を包んでくれるのだ。軟らかい麺が主流の佐賀だが、若干歯ごたえを残した中太麺もスープとよく絡む。強さだけでなく、優しさ、丁寧さを感じさせてくれる一杯だ。

 「ラーメン作りは神経をすり減らします」と2人。今、ミツ子さんは店から距離を置き、真一さんが1人で厨房に立つことが多い。「自分がちゃんとできる範囲で」と営業は一日3時間半に限っている。 (小川祥平)


=2015/03/05付 西日本新聞朝刊=

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