母との日々 家族の物語に 4月新連載 「ペコロスの陽(ひ)だまりの時間」 岡野雄一さんに聞く

岡野雄一さん。長崎の街を見下ろす自宅近くで 拡大

岡野雄一さん。長崎の街を見下ろす自宅近くで

 ●厳しい時代、温かな時を 
 認知症の母と、60歳を過ぎた息子のおかしくも切ない日常を描いた漫画「ペコロスの母に会いに行く」(西日本新聞社刊)。ペコロスこと、漫画家の岡野雄一さん(65)=長崎市=が2014年3月から生活面で続編を連載してきたが、連載1周年を機に、母との日々を中心に描いてきた連載を衣替えし、4月7日から新たな家族の物語を紡いでもらう。新連載は「ペコロスの陽(ひ)だまりの時間」。岡野さんの思いは-。

 《昨年8月、母光江さんが91歳で旅立った》

 母が生きている間、僕は母が暮らしていた施設に会いに行っていたが、今はいろいろな場所に会いに行く。墓参りも、漫画を描くのも、講演も「母に会いに行く」こと。そこかしこに母の気配を感じています。

 母の死後、弟とよく母の話をします。それは、新たな母の発見であり、あらためて家族を見つめ直すことでもある。「認知症の母」は薄まり、家族の中にいる母がよみがえってきます。

 最近、介護は広い意味で「家族のやり直し」と捉えるようになりました。僕は介護のプロでも何でもない。認知症も介護も何も知らないまま、母に付き合って、胃ろうをして、そして見送った。僕の漫画を広く読んでもらえたのは、目の前にいる家族やお年寄りに思いをはせ、その人生を想像することへの共感なのかな。これまでの延長線で「家族」を描きます。

 《岡野さんも65歳で高齢者の仲間入り。日本の高度経済成長期を支えてきた「団塊の世代」が老年期を迎えている》

 同世代で話していると「あれ、あれ」と、物や人の名前を思い出せない。新連載は「ペコロス『に』会いに行く」にしないといけないかも(笑)。

 でも、僕の強みは65歳であること。ある程度生きないと分からないことがある。いろいろな経験をしたからこそ、若いときと違った目線で見られる。ぼけることも、はげることも肯定できる。

 20歳で、狭い長崎を嫌って上京した僕が、40歳で「狭さ」が心地よくて戻ってきた。それから10年、両親と長男と蜜月の時間を過ごし、60歳を過ぎて(漫画がヒットするなど)いろいろな広がりがあった。

 僕ら世代に共感してもらえる機微も盛り込みます。

 《今年は戦後70年。岡野さんの父覚(さとる)さん(享年80)は長崎市の造船所で勤務中に被爆。岡野さんも被爆2世だ》

 おやじを描くと、今との温度差やずれが出やすい。例えば、1991年の湾岸戦争のニュースを見ながら、おやじは「絶対、戦前や戦中の日本には戻らない」と言った。もし今、生きていても同じことを言うかな、と考えてしまいます。

 被爆2世って、親が口ごもるから被爆体験に触れないようにしてきた面がある。その間に体験を語ってくれる人は減った。そんな中、長崎の高校生たちが平和や核兵器廃絶を求めて活動しているのを見て、考えるところがあります。

 戦争に再び手が届きそうな雰囲気を、今の世の中に感じます。今、この世の中をしっかり見ておこう。そして、僕なりに漫画を描いていこうと。

 《新連載のタイトルは「ペコロスの陽だまりの時間」。岡野さんの漫画には、亡くなった両親が空から見つめる場面がたびたび登場する》

 自殺もうつも多い厳しい時代、多くの人が温かく照らされるようになればと願っています。それと、認知症の面白いのは時間軸がぐちゃぐちゃになる点。過去、現在、未来が行き来してSFのよう。そんな温かく、面白い「時間」を描いていきます。


=2015/03/24付 西日本新聞朝刊=

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