【和食力】素材の味引き出す技 福岡の料理人 北島さん 海外で腕ふるう

「良い野菜を捨てることなく全部使います」と語る北島克正さん 拡大

「良い野菜を捨てることなく全部使います」と語る北島克正さん

オランダの和食イベントを伝える現地の新聞

 オランダの工業都市アイントホーフェンの一つ星レストランの厨房(ちゅうぼう)は思いのほか広かった。ただ、食材も水も日本とは違う。「この条件でどれだけ和食の味を出せるのか。やるしかない」。北島克正さん(64)=福岡県古賀市=は覚悟を決めた。

 店のオーナーに請われて2011年9月、和食を1週間提供した。福岡から持参したみそ、しょうゆ、かつお節、のり以外の食材はほぼ現地で調達した。海外での調理経験は既に6回。心づもりはできていた。

 前菜はアスパラ、かきなど8品を盛った。サバのスモークは現地では20分ほどいぶすが「素材の味を生かすため」30秒だけにした。地元紙は和食の特徴を「いろんな味、食材の多様性」と報じた。

    ◇    ◇

 北島さんは福岡市中央区高砂で創作日本料理「練」を構える。なじみ客のベルギー人男性が帰国後、腕をふるってほしいと自宅に招待してくれ、隣国オランダも訪れた。レストランで調理することになり、味を気に入ったオーナーが企画した1年越し、期間限定のイベントだった。

 期間中、メニューに和食の味を加えたいというシェフにだしの取り方、使い方を教えた。洋食はいろいろな調味料で素材に味を加えていく「足し算」。対して和食は素材の味を引き出す「引き算」の料理という。だしは素材の味を際立たせる。「素材のごまかしはきかない」と伝えた。

 魚の扱いもアドバイスした。「魚に塩を振って10分ほど置く。それを洗って使えば臭みが取れる」。翌日、弾んだ声で味が変わったと感謝されたという。

 スモークが名物のウナギは、かば焼きの調理を教えた。身の開き方のほか、地元産は皮が厚かったため細かい切れ目を入れる下ごしらえを伝授した。

 日本の料理人が受け継いできた、素材を生かす一つ一つの技に海外のシェフは目を見張った。

    ◇    ◇

 カウンター6席とテーブルが3つ。「お客の顔を思い浮かべられる」ほどの北島さんの店だ。昼下がり、自身もよく食べるという特製ラーメンをいただいた。タイの頭と中骨を昆布、ニンニク、ショウガを入れて煮出すこと約1時間。塩、薄口しょうゆ、酒で味を調えたスープは麺とよく絡む。臭みがないのは「塩振り10分」のなせる技だろう。こんなラーメンがあるんだ。しばし味に入り込んだ。

 日々の料理は材料の買い付けから始まる。まず旬の食材を選ぶ。「春はフキノトウ、ワラビなど苦みのある物がいい。冬に濁った体をきれいにする効果がありますから」

 少しでも体に良い物を食べてほしいと地元産の無農薬野菜を使う。捨てるところはほとんどない。ニンジンは葉の付け根も斜めに薄く切って、ネギの根も油で揚げて使い切る。

 鮮度にもこだわるが、食べるには生がいいとも限らない。例えばイカは、ちょっとあぶれば甘味が出る。魚も肉も時間をおいて熟成させることもある。

 料理を引き立てる日本酒にも工夫がある。冷酒で飲んでもらった後は、燗(かん)をつけて出す。温めることでコハク酸などのうま味を感じやすくなり「隠れた味」を引き出してくれるという。

 素材を生かす伝統の技と料理人の思いがこもった和食の世界が広がる。

 秋には米国に暮らすなじみ客の招待で渡米する。

    ×      ×

【ワードBOX】だし

 基本の昆布とかつお節のだしの取り方は、北島さんの場合(1)水4リットルに対して昆布60グラムを弱火で60度まで沸かして取り出す。この間10~15分(2)90度まで熱してかつお節80グラムを入れる(3)沸騰しかけたらペーパーでこす。底に沈むまで入れておくと長くなりすぎて生臭みが出るという。「だしは料理の土台」と語る創業400年の京料理の老舗「瓢(ひょう)亭」の14代当主、高橋英一氏はだしの取り方は十人十色で「だしに正解はない」と語る。


=2015/03/25付 西日本新聞朝刊=

PR

PR

注目のテーマ