【生きる 働く 第4部】やりがい求めて 就活を考える<1>否定されたと感じ苦悩

俊之さんが得意だったという高層ビルなどを描いた作品。絵を描くことが大好きだった 拡大

俊之さんが得意だったという高層ビルなどを描いた作品。絵を描くことが大好きだった

 冗談だったのか、本気だったのか。「死のうかと思ったよ」。昨年6月。大学の食堂で、同級生だった友人(22)にそうつぶやいた約半月後、大学4年だった俊之さん=仮名、当時23歳=は自ら命を絶った。

 小さいころから絵を描くことが大好きだった。「友達も絵を通してできていた。兄の人生は全部、絵が中心だった」。妹の佐知さん(21)=仮名=はそう振り返る。

 大学でも映像制作のサークルに所属し、3Dアニメーションの作品を積極的に発表したり、漫画を描いたり、充実した学生生活を送っているように見えた。家族思いの優しい兄だった。

 様子が一変したのは、就職活動を始めて5月に入ったころだった。大学で受けたカウンセリングの資料には、当時の心境がつづられている。

 〈つい2週間前までは何の疑問も持たず、実力があると信じ込んでいました。でもそうじゃなかった〉〈社会は僕のことなんか求めてなかった。何も分かってなかっただけなんです〉

 優しい顔つきだったのが、表情がなくなり、自宅の部屋に引きこもりがちになった。家族も友人も、日に日に変わっていく俊之さんを心配した。

 6月に入ると、状態はさらに悪化した。〈もう手遅れなのではないか、食べていけるようなまともな仕事に本当に就けるのか、のたれ死ぬしかないのか、と考えてしまい、怖くて〉。亡くなる5日前には〈こんな仕事をしたらいいんじゃないかとか考えるべきなのに。今はもう、そういったことを考えること自体ひっくるめて嫌になっていて〉と思っていた。

 カウンセリングでは「就職活動をきっかけに、絵の才能、その後の活躍という、これまで信じてきたことが一気に揺らぎ、不調に陥っている。特に気持ちの面が不安定で、抑うつ的な兆候も認められる」とされた。

 携帯電話に残された家族宛ての未送信メールには、謝罪の念が書かれていた。佐知さんは今でも時々、兄の分までつい買い物をしてしまう。「就活に失敗してから兄は変わっていった。でもなぜ死を選んだのか、今でも分からないんです」

 「第一希望の企業に落ちて何も手に付かなくなった」「これからのご活躍をお祈りしますという『お祈りメール』(不採用通知)が続き、自己否定をされたようで苦しかった」。就活を経験した人たちに話を聞くとこんな感想が返ってくる。

 就活を精神的負担に感じる学生は少なくない。警察庁の調査によると、2014年に「就職失敗」を原因とする20代の自殺者数は110人。07年の約2倍だった。

 社会人3年目の健二さん(24)=仮名=もつらい就活時代を送った一人だ。50社以上を受けたがすべて不採用。「これまで頑張ってきたことは無駄だったのか」と落ち込んだ。4年生の12月、大学の就職課に求人があった福岡県内の財団法人にやっと内定をもらい、就職した。

 今は「やりがいがあり、とても幸せ」だ。忙しくないときは定時に帰れるし、職場の人たちとの関係も良く、仕事も面白い。だからこそ、振り返ると分からなくなる。「あのつらくて無意味な就活の期間は、何だったのだろう」と。

    ◇    ◇

 夢や希望を抱き、やりがいや生きがいを求め、幸せに働くための第一歩であるはずの就職活動。16年春卒業予定の学生は、就職活動開始の解禁日が繰り下げられるなど、環境が大きく変わった就活の真っ最中だ。その現場で何が問題となっているのか。「幸せに働くことにつながる就活」にするにはどうすればいいのか。就活のあり方について考えたい。 


=2015/04/14付 西日本新聞朝刊=

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