【九電 九州考】(2)の1 巨額寄付、元は電気料金

 熊本県苓北町の都呂々(とろろ)漁港。1個80トン級の無数の消波ブロックを海側に従えた巨大な防波堤が港を囲む。その中で、小さな漁船十数隻が居眠りするように、停泊していた。有明海の大波を遮る漁港整備は2001年度から始まり、10年度にようやく終わった。

 総額約12億円の公共工事。施工したのは地元の土建業者らだ。国・県が7億3700万円、町が1億7700万円を出し、「早く完成させたい」とする地元の意向を受け、残り約2億9千万円を九州電力が寄付した。

 寄付は1995年。ちょうど九電が町内に建設した苓北火力発電所(出力140万キロワット)が稼働するころ。発電所の立地をめぐっては町内の意見が割れ、町長のリコール運動にまで発展した。約2億9千万円について、ある町民は「また反対運動が起きないための地元対策費だった」とみる。

 この工事は、九電本来の役割である電力の安定供給とは直接関係ない。電力会社の必要経費はすべて電気料金に加算されているのだから、約2億9千万円の本当の出し手は電気利用者といえる。九電の寄付は適正だったのか-。

 西日本新聞が九電の主要な発電所(原子力、火力、水力など)がある九州の15自治体を取材したところ、苓北町のように九電から寄付を受けた自治体が80年代以降、少なくとも七つあり、127億円が支払われていた。佐賀県玄海町に、1世帯100万円を払う代わりに寄付された30億円も含まれる。

 環境汚染などを招く懸念のある発電所を立地すると、立地自治体には法律に基づき国が巨額の「電源立地交付金」を出す。それは原発に限らない。これとは別に「九電交付金」とも呼ぶべき金を上乗せしてもらった自治体があったのだ。

 九電交付金の支払い基準は判然としない。出力約230万キロワットと玄海原発3、4号機合計分がある新大分火力発電所を抱える大分市などは「一切受け取っていない」という。

 一方、出力120万キロワットの小丸川水力発電所がある宮崎県木城町は、着工直前の98年に22億円を受け取り、農業予算などにほぼ使い切った。木城町は発電所誘致に積極的で目立った反対運動もなかった。九電、町側どちらから言いだしたのかも分からず、「過去の資料をめくっても、はっきりしない」。町担当課長は答えた。

 12月下旬、苓北町の海岸辺りを歩いた。町によると、10年ほど前から、海藻が大規模に消失する「磯焼け」が発生、深刻な漁業被害を招いているという。発電所そばの海から上がってきた稲尾賢一さん(53)は素潜り漁23年のベテラン。1日でナマコやアワビがバケツ1杯分しか採れず、「昔はウニやアワビが産卵する海藻が豊富で、今の何倍も採れたんだが」とため息をついた。

 発電所ができる前に約180人だった地元漁協組合員も実質その3分の1に減ったという。

 九電交付金などで立派になった都呂々漁港で、釣り糸をたらしていた地元の女性(75)はこう漏らした。「肝心の船に乗る人がいなくなってしまって」

=2011/12/31付 西日本新聞朝刊=

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