【問う語る】(3)の1 電力全面自由化「むしろ欠陥」 真部利応・九電社長

▼まなべ・としお京都大卒。1968年九州電力入社。経営企画室長、熊本支店長などを経て、2007年に末席取締役から社長就任。任期途中の3月31日に社長を退任する。香川県出身。 拡大

▼まなべ・としお京都大卒。1968年九州電力入社。経営企画室長、熊本支店長などを経て、2007年に末席取締役から社長就任。任期途中の3月31日に社長を退任する。香川県出身。

 各地域を独占し、電力を供給する電力10社の「域外供給」は2005年に解禁された。それから約7年。全国で実現したのは九州電力が供給する広島市のイオン宇品店1件だけ。競争を促し、顧客の選択の幅を広げるという国策に沿った「優等生」ぶりは大きな注目を集めたが、真部利応社長(66)はこの冬、悩んだという。

 「実は最近、宇品店をうちが持っていていいのか、と思ったんです」。九電は今、原発が全て停止し、電力の供給量が不足しており、宇品店を管内とする中国電力を含む他社から電力融通を受けている。「なのに、うちは広島に送っている。中国電力から見たら、何と映りますかね」

 電力を融通してもらいながら、相手の“陣地”に攻め込んでいることへの後ろめたさ。心情論としてはうなずける。ただ、域外供給はおろか電力市場への新規参入も広がらず、電力10社による独占状態が続く中、真部氏の疑問は、はた目から見れば「仲間意識」の表れのようにも映る。

 福島第1原発事故、「やらせメール」問題を契機に、あらためて問われた独占ゆえの弊害、おごり。枝野幸男経済産業相は電力会社への不信を背景に、全面自由化、発電と送電部門の切り離しをうかがう。「電力のかたち」はどうあるべきなのか-。

 真部氏の言葉に耳を傾けてみる。

 「参入や域外供給が進まないのは、多くの顧客に供給するための電源を確保できないからでもあるんです」

 自由化による競争が進めば進むほど、価格競争で短期間に顧客を奪われるリスクが増す。一方で、大規模な発電所の建設には10年以上、数千億円もかかる。「投資回収できないかもしれないリスクを冒して電源を造る決断ができる民間企業の社長なんかいない」

 背景には、多くの電力会社が価格競争を強いられ、設備投資が十分でなく停電が頻発した戦前の反省がある。1951年に現在の体制ができ、域内の隅々にまで電力を安定供給することを義務付けることと引き換えに「顧客が長期にわたってついているという保証」を電力会社に与えた。それが地域独占だ。

 逆に言えば、全面自由化となれば保証がなくなり、供給の義務を負う会社がなくなる、と真部氏は危惧する。「離島など赤字を出す場所に供給する事業者はいなくなる。むしろ、欠陥がある」

 こうした「日本型電力モデル」の最たる電源こそ、1カ所で大規模に電気をつくれる原発だった。しかし、福島の事故は、民間企業が原発を持つ経営リスクがあまりにも大きいことを示した。

 「保険はあてにならず、損害補償額は青天井、そんな状況で、あんな事故を前提にしたら絶対に経営にならない」

 とはいえ、事故は起きた。絶対安全は、幻だった。

 「電力会社が国や地域の安定供給を考えるなんて分を越えていると言うなら別です。でもやはり、電力会社は電力を長期安定供給するという責務を負っています。そういう意味で、とにかく原子力はなくせない、と」

 -民間企業が原発を抱えられますか。国営にすべきだと思いませんか。

 真部氏は苦笑して明言を避けた。「ものすごく、答えにくい」

 電力の安定供給を“錦の御旗”に掲げつつ、地域独占を維持し、原子力依存度を高めてきた電力会社が転機を迎えていることは間違いない。言葉を濁す経営トップの姿は、大波にもまれる業界の「今」を象徴している。

=2012/03/02付 西日本新聞朝刊=