【九電大解剖】(1)巨大企業 地域を左右 HTB再建にも関与

今秋ハウステンボスであったガーデニングワールドカップは大勢の人でにぎわった=長崎県佐世保市

 九州電力のやらせメール問題が7月初旬に発覚してから半年が過ぎようとしている。問題の収拾を図るため、九電の真部利応(まなべとしお)社長は年度内の辞任を表明したが、けじめを求める市民の納得は依然として得られていない。九電は地域に独占的に電力を供給し、設備投資額は、九州全体の民間の3割近くを占める。その圧倒的な存在を、地域も頼みにしてきたのは確かだ。九電は信頼を回復し、今後も、九州のリーダーの役割を果たしていけるのか。

 長崎県佐世保市の大型リゾート施設、ハウステンボス(HTB)の経営危機が2009年7月、表面化。従業員約千人の雇用、地域に不可欠な観光拠点を守るため、朝長(ともなが)則男・同市長が真っ先に頼ったのは、九州経済連合会長(九州電力会長)の松尾新吾氏だった。九経連は九州・山口の約750社で組織する地域最大の経済団体。会長は歴代、九電会長が務めてきた。松尾氏は1961年に発足した九経連の、7代目の会長である。

 朝長氏は、松尾氏とは1度しか会ったことはなかった。それでも「九州をまとめるのは松尾会長という考え」で09年10月、福岡市中央区の九電本社に赴いた。朝長氏は「地元経済界として、支援をしていただけないか」と頭を下げた。

 当時、HTBの親会社は、巨額の赤字続きのHTBを手放すため、代わりの支援企業を探していた。30社をリストアップし交渉したが、ことごとく支援を断られていた。

 地元・佐世保には、HTBを支えられるような大企業はない。朝長氏は意を決して、福岡に向かったのだった。

 福岡経済界には互友会(通称・七社会)と呼ばれる親睦団体がある。現メンバーは福岡市に本社を置く九電、九電工、西部ガス、西日本鉄道、JR九州、福岡銀行、西日本シティ銀行の7社。総務担当者らが定期的に集まり、地域の寄付金配分などを決めている。七社会は結束して九州国立博物館(福岡県太宰府市)の誘致などを実現してきた。七社会を仕切るのもまた、九電である。

 朝長氏は松尾氏がHTBが九州経済に必要な存在と認識していたといい、「すぐさま七社会の幹部に諮って、どうするかを決めると、そういう話を頂いた」と振り返る。

 2日後、松尾氏は七社会の両銀行を除く5社に福岡地所、コカ・コーラウエストを加えた7社の幹部を集め、合同のHTB検討チーム(約20人)の発足を決める。チームは連日、議論を重ね、約1カ月後、四つの地元支援案をまとめた。

 ただ、その前後に旅行大手エイチ・アイ・エス(HIS)が支援に名乗りを上げ、4案が具体化することはなかった。

 しかし、再出発したHTBの資本金15億円のうち10億円はHIS、残る5億円はHISの意向を受け、福岡の5社が出資した。九電は2億円を出し、松尾氏は顧問に就任した。九州のトップ企業、九電の支援は、「地元はHTBを見捨てない」というアピールになる。

 HTBは11年9月期決算で、92年の開業以来初の営業黒字を達成した。

 九電はいま、「やらせメール」問題で、第三者委員会が指摘した、やらせの発端は佐賀県の古川康知事の発言ということを認めず、窮地に陥る。朝長氏は「企業として行政の長が『こうだった』と決めつけられないのではないか」と、九電に同情的だ。一方で、今年8月発覚した九電石油火力の相浦発電所(長崎県佐世保市)が燃料タンクに穴が開いていることを隠し、同市消防局に虚偽報告していた問題を踏まえ、「(悪いことは)上にあげる風潮がなくなっているとすればよくない」と話した。

 沢田秀雄HTB社長(HIS会長)は「(松尾氏には)今後も弊社顧問としてお願いしたい」とコメントした。

 ●協力金含まずに年平均約12億円

 ▼寄付金 地元に対する寄付金も多い。公表している2004年度―10年度の年間平均は11億9千万円に上る。最近は佐賀県への寄付が目立ち、(1)佐賀国際重粒子線がん治療財団(佐賀県鳥栖市)に39億円(複数年で支払い)(2)早稲田佐賀学園(唐津市)に20億円(同)-など。同県が06年に玄海原発(玄海町)3号機でのプルサーマル発電の実施に同意するなど、県が原発政策について九電と歩調を合わせてきた見返りという見方もされている。

 ただ、発電所の立地合意の見返りに自治体などに支払う「協力金」はこの寄付額には含まれないという。過去振りかえると、反対運動を抑える狙いで数十億円の協力金が支払われたケースもある。

 さらに、スポーツ振興、環境保全などについての寄付も別途支払っており、実態としてさらに膨らむのは確実だ。

 また政治団体への献金については九電は1974年から企業献金を自粛。電気事業を地域独占状態で行っていることを踏まえ、「特定政党の支持は好ましくない」というのが理由。ただ個人の献金は制限していない。佐賀県の古川康知事への九電幹部の個人献金は2010年、幹部3人から計11万円に上った。知事側は「(11年分から)九電関係者の個人献金は受けないようにした」と説明している。

 ●松尾会長は100以上担当

 ▼役職 九電は地場の主要企業に役員を送り込み、いわば地域の適正な経済活動を監視する役割も担っている。

 ふくおかフィナンシャルグループやJR九州、西日本鉄道など地場企業の社外監査役や取締役を兼務するのは、鎌田迪貞相談役、松尾新吾会長、真部利応社長のほか副社長ら。各社の経営状況をいつでも把握できる「一段上」の立場にある。

 さらに、九電会長となると「100を超える地域の役職を抱えている」(九電報道グループ)という。現在の松尾会長は、指定席とされる九州経済連合会長だけでなく、日本郵政社外取締役、全日空(ANA)社外監査役など全国区の役職を任され、これまでは経営手腕が高く評価されてきた。一方で、日本相撲連盟会長などスポーツ、文化活動を担う団体の“看板”にもなるなど役職は幅広い。幹部OBも、行政の第三セクターや地元の大学など主要役職を任されるケースが多い。

 ●4割超は金融機関

 ▼株主 九電の資本金は約2373億円。発行済み株式総数は約4億7418万株で、約18万5千人の株主がいる。株主構成(3月末)は、金融機関が44・1%で最も多く、その他の国内法人6・2%、個人・その他が36・8%などとなっている。

 大株主には、明治安田生命保険(4・8%)や日本生命保険(3・8%)、企業年金などを一元管理する信託銀行が名を連ねる。電力株は、原発事故前までは株価も配当も安定しており、運用に適していたからだ。第8位の大株主には、社員の持株会「九栄会」(1・6%)が入っている。

 今年の株主総会では、原発の廃炉など脱原発に関する4議案が株主提案されたが、いずれも賛成票は5%にとどまり否決された。多くの株主が、安定経営のためには当面は原発が必要と判断したとみられる。

 ●グループ全体で従業員2万人

 ▼関連会社出資先 本体の従業員は約1万1700人だが、グループ全体だと2倍弱の2万人に膨れ上がる。グループ関係会社は約80社に及んでいる。

 エネルギー関連では液化天然ガス(LNG)を受け入れる大分エル・エヌ・ジーなどが大きい。発電所補修などを行う西日本プラント工業は地場企業と取引が多く、立地自治体では良く知られている。このほか、情報通信では九州通信ネットワーク(QTネット)、社会・生活サービス事業では電気ビルなどもある。

 出資比率が低く、関係会社には含まれない出資先はさらにある。

 例えば、スターフライヤーやハウステンボスなど企業支援を目的に出資したところや、第三セクターの博多座や福岡空港ビルディングなど地域振興を目的にしているケースもある。福岡放送、RKB毎日放送などのほか、西日本新聞社株を3・08%保有する。

 【注】イラストのデータは九電を含む各社の有価証券報告書、公表資料、東京商工リサーチの調査などを基に作成した。

=2011/12/30付 西日本新聞朝刊=

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