【フクシマの教訓】(4)先送りされた免震棟建設 備え途上の「政治判断」

右上は事故から約2週間後の福島第1原発の免震棟内(東京電力提供)。中央は四国電力伊方原発の免震棟。下は11日、伊方原発近くで座り込む市民ら 拡大

右上は事故から約2週間後の福島第1原発の免震棟内(東京電力提供)。中央は四国電力伊方原発の免震棟。下は11日、伊方原発近くで座り込む市民ら

 事故時に現場での「指揮所」となる2階の緊急時対策所は窓がなく、大型のテーブルにモニターが並んでいた。地下に建物の揺れを和らげる免震装置を備え、震度7クラスの地震に耐えられるという。

 四国電力が伊方原発(愛媛県伊方町)に約40億円かけて建設し、昨年12月に運用を始めた免震重要棟。5月31日、伊方町に隣接する同県八幡浜市の市議、遠藤素子(71)は同僚議員16人と視察した。「完全に放射線から遮断された状態で活動できる」。四電社員の説明を聞けば聞くほど、遠藤の疑問は膨らんだ。「免震棟のない大飯原発が再稼働していいのか」

 2007年7月16日、新潟県中越沖地震。東京電力柏崎刈羽原発(新潟県柏崎市、刈羽村)では緊急時対策室の扉がゆがんで社員が入れず、野外の駐車場にホワイトボードを並べて仮の対策本部とするなど大混乱した。慌てた東電は、福島第1、第2と柏崎刈羽の3原発に免震棟を整備した。

 福島第1原発では、事故発生8カ月前に完成した免震棟に対策本部が置かれ、所長の吉田昌郎以下、最大600~500人が昼夜をたがわず詰めた。原子炉建屋の爆発が相次ぎ、放射性物質が漏れ出す中、原子炉の冷却にあたる最前線だった。「仮に免震棟がなければ(事故の)対応は継続不可能だった」(東電)

 2度にわたる地震の教訓は明らか。だが免震棟を設置済みなのは四電や中部電力など一部のみ。政府が4月末に決めた新たな安全基準では、免震棟建設は「中長期的な対策」に位置づけられた。つまり、再稼働後に先送りして構わない、と-。

 免震棟先送りの背景には、安全評価(ストレステスト)の1次評価をクリアすれば、福島第1原発を襲った地震や津波がきても原子炉は損傷せず、同じような事故は起きないという政府の考えがある。

 本格的な免震棟建設には1年前後かかるし、費用もかかる。規制当局が再稼働を急ぐ政権と電力会社の事情を酌んだとの見方は消えない。

 「全ての安全対策を調べ、講じられるものを講じてから再稼働させる考えもあるのではないか」

 4月18日、東京の参議院議員会館講堂で開かれた国会の事故調査委員会(国会事故調)。委員たちは、政府の安全基準を策定した原子力安全・保安院長の深野弘行に疑問をぶつけた。

 深野の答えは煮え切らなかった。「最後は政治で判断されました」

 関西電力大飯原発(福井県おおい町)では、既存の対策所(約280平方メートル)が被災した場合、中央制御室横の会議室を活用するという。福島原発の免震棟が約3700平方メートルなのに対し、大飯原発の会議室は約400平方メートル。十分なスペースとは言い難い。

 九州電力は中越沖地震後に、玄海原発(佐賀県玄海町)と川内原発(鹿児島県薩摩川内市)にある緊急時対策所の耐震性を引き上げた。広さは230~110平方メートルにすぎない。九電社長、瓜生道明は4月、免震棟を含む中長期対策について「準備を進める必要がある」と語ったが、具体化はまだ先だ。

 国会事故調の委員長、黒川清のコメントは厳しい。「安全稼働するために必要な対策が先送りされ、判断基準の想定を超える災害が来た場合の対策ができていない」
(敬称略)

=2012/06/15付 西日本新聞朝刊=

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