【問う語る】(2)の2 国民の納得が大前提 元内閣官房参与・田坂広志氏

▼たさか・ひろし多摩大大学院教授、シンクタンク・ソフィアバンク代表。東京大工学部で原子力工学、同大医学部で放射線健康管理学を学ぶ。工学博士(核燃料サイクルの環境安全研究)。現在は経済、経営、情報分野などで幅広く発言し、著書は60冊余。60歳。 拡大

▼たさか・ひろし多摩大大学院教授、シンクタンク・ソフィアバンク代表。東京大工学部で原子力工学、同大医学部で放射線健康管理学を学ぶ。工学博士(核燃料サイクルの環境安全研究)。現在は経済、経営、情報分野などで幅広く発言し、著書は60冊余。60歳。

 昨年3月から計157日間、内閣官房参与として福島第1原発事故への対応に当たった。菅直人首相(当時)の「最大のブレーン」と呼ばれ、フランス北西部ドービルで開かれた主要国首脳会議(G8サミット)にも同行。菅氏の「脱原発依存」路線を陰で支えた。そんな中、海江田万里経産相(当時)が九州電力玄海原発の再稼働に動く。

 「非公式な情報は伝わってきていました。(首相から)意見を求められる可能性はあると思っていましたが、事態は予想以上に速く進みました。浜岡原発の停止で経産省も危機感を持ったのでしょう。浜岡は止めたが他の健全な原発は再稼働できる、そのシナリオに持っていきたかったのでしょう」

 結局、菅首相の「ちゃぶ台返し」で玄海原発の再稼働はお預けとなる。

 「電力需給に責任を持つ役所ですから、経済や産業に打撃を与えてはならないという経産省の立場は理解できるのです。しかし、3・11以前の法律に基づき、3・11以前からの組織が、3・11以前に決まった手順とルールに従って再稼働するというのでは、国民の納得は得られない。これは法律論ではなく常識論です。突然車のブレーキが利かなくなって事故を起こしたら、オイルが切れていた、だけでは済まない。全部総点検するのが常識です。ところが、今はまだ、整備工場で結論が出ていない状態なのです」

 近著「官邸から見た原発事故の真実」(光文社新書)で、再稼働の際に「了解」を得る必要があるのは「地元」だけか、と問題提起した。

 「震災が教えてくれたのは、原発事故の被害は複数県以上の広域に及び、風評被害まで含めれば日本全体に広がる可能性があるということ。被害の領域が広がるということは、お金で解決できなくなるということです。他の自治体にも交付金を配ると、電力コストが膨大になるからです。従って、これからは国も電力会社も、地元の了解を『錦の御旗』にできない。『国民の納得』という問題と正面から向き合わざるを得なくなるのです」

 原発の安全性をチェックする原子力安全委員会の委員が原子力関連企業から寄付を受けていた。原子力工学の専門家として原子力の推進に携わってきた田坂氏自身、「反原発」派ではない。「原子力ムラ」を内部から見てきた人間だからこそ、改革を唱える。

 「(原子力を推進する)米国エネルギー省傘下の国立研究所で働いていた時のこと。所長と食事した原子力規制委員会(NRC)の高官が、当然のように自ら食事代を支払うのを見ました。職業倫理が徹底している。日本ではその意識が希薄です。原子力規制庁(4月発足)をつくれば終わりなのではない。組織文化の変革という一番難しい問題が待っています」

 問われているのは、原子力行政だけではない。

 「文部科学省の緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)の試算が直ちに総理に伝わらなかったのは、官僚機構の縦割り組織と組織的無責任が原因になっています。官僚一人一人は優秀で責任感はあるのに、それが組織になると極めて無責任な状況を生み出す。年金記録の喪失問題や薬害エイズ問題も根は一つです。だから、この原子力行政の改革は、行政改革全体の突破口でもあるのです」

=2012/03/01付 西日本新聞朝刊=

PR

PR

注目のテーマ