【問う語る】(3)の2 「普通の会社」になって 一橋大大学院・橘川武郎教授

▼きっかわ・たけお一橋大学大学院教授。経産省の総合資源エネルギー調査会・基本問題委員会委員。専門はエネルギー産業論。九電を含めた電力7社の社史を執筆。近著に「東京電力失敗の本質」(東洋経済新報社)。和歌山県出身の阪神ファン。60歳。 拡大

▼きっかわ・たけお一橋大学大学院教授。経産省の総合資源エネルギー調査会・基本問題委員会委員。専門はエネルギー産業論。九電を含めた電力7社の社史を執筆。近著に「東京電力失敗の本質」(東洋経済新報社)。和歌山県出身の阪神ファン。60歳。

 経営史研究者として長年、電力業界を研究してきた。東京電力の「お粗末」な対応が明るみに出た福島第1原発事故に加え、九州電力の「やらせメール」問題にも大きなショックを受けた。

 「電力10社の中で、九電は断トツで『優等生』だったわけです。大きな原発のトラブルもなく、高稼働率を維持してきた。ただ、原発は稼働率が良いと(収益性が高く)『打ち出の小づち』のようにもうかる仕組み。原発依存度が高まると、運転が止まって再開の見通しが立たない状況は避けなければならなくなる。東電のトラブル隠し、やらせメールも同じ根だと思います。優等生が陥りやすい罠(わな)です。九電は原発依存度を高めすぎて、『普通の電力会社』になっちゃった」

 全国の電力の「現場」を歩いてきた。九電を含めた電力業界の問題点を「高い現場力と低い経営力のミスマッチ」と指摘する。

 「たまたま九電社員と鹿児島の離島にいたときのこと。台風が来ると聞くと、平時はちんたらしていた社員たちが停電対策に目の色を変え、急に格好良くなりました。津波に見舞われた東北の被災地では、まるで被害を受けなかったかのように真新しい電柱、送電線が素早く設置された。有事の際の現場力は高い」

 「戦後、民営でいきたい電力業界と、国家管理に戻したい通商産業省(現・経済産業省)のせめぎあいがあり、緊張関係がありました。高度成長期は、電力会社同士も経営合理化競争をした。ところが、石油ショック後に『脱石油』が叫ばれ、原発にシフトすることになって国と一枚岩化してしまった。業界自身、値上げも値下げも一緒のカルテル的体質に変わった。競争がないからお役所的になり、経営力が衰えてきたんです」

 電力会社の発電、送配電部門を分ける「発送電分離」が検討されている。橘川氏はむしろ、電力同士の競争を促す全面自由化を唱える。

 「福岡の家庭で中国電力や関西電力から電気を買える仕組みにする。他地域に乗り込んで競争するようになれば、やらせのようなインチキをすれば他の会社に顧客を奪われます。電気料金も安くなるでしょう。結果、例えば中国、四国、九州が合併し『西日本電力』みたいな会社が誕生する可能性もあります」

 原発事業の分離・国有化も持論だ。さらに原子力を「過渡的エネルギー」とみる。

 「長期的には、原子力は今世紀半ばで役割を終えるでしょう。ただ中期的には、再生エネルギー、省エネ・節電、二酸化炭素(CO2)を排出しないような火力発電の技術革新に全力を注ぎ、足りない電力は原発で、ということになる。上手に原発を『たたむ』ため、リアルな議論をしないといけないのです」

 震災を踏まえた安全基準の見直しを経ないまま、原発の再稼働を認めることには懐疑的だ。

 「電力会社の多くの人間が『電力は必要だ』という理屈で再稼働できると思っている。甘すぎます。あれだけの事故があったんですから、安全評価(ストレステスト)だけで認めるのは良くない。しかも政局待ちの姿勢で、電力改革についても発言しない。今こそ筋論が大事です。九電には『普通の電力会社』をやめて、競争する『普通の会社』になりましょうよ、と言いたい。競争の先頭に立つべきだと思いますね」

=2012/03/02付 西日本新聞朝刊=