原発の労働現場から(下) 請負構造 変革のとき

縄田和満教授 拡大

縄田和満教授

 ひとたび原発事故などとなれば、対応の矢面に立つ多くの現場の請負労働者に、電力会社は指揮命令もしなければ、労働者の身を守る直接の義務を負わない。それで本当に緊急事態に対応できるのか-。2012年には関西電力大飯原発(福井県おおい町)の改修工事に労働者を送り込み働かせていたとして指定暴力団工藤会系企業の役員が逮捕される事件も摘発された。原発労働者のあり方を研究している東京大の縄田和満教授(計量経済学)に、どう改善すべきか聞いた。

 ◆「直接雇用増やすべきだ」 東京大・縄田和満教授に聞く

 -何が問題か。

 「多重の請負構造のままで、重大事故の緊急対応ができるのか疑問だ。電力会社は原子力事故の損害賠償責任を負っている一方で、直接、下請け労働者に指揮命令すると『偽装請負』となって職業安定法などの違法。原発の安全神話を前提とした請負は緊急対応にそぐわない。それは、福島第1原発事故ではっきりしたのではないか」

 「社員と比べ、下請け労働者の被ばく量が多いことが知られている。ある下請け業者が被ばく量を減らす作業ノウハウを確立しても、それをわざわざライバルの同業他社に教えない。現場の安全性を日々高めていくのにも請負構造は大きな足かせになっている。もし電力会社の社員だったら労働組合の監視もあり、もっと被ばく量を減らせた可能性はある」

 -なぜ、電力会社は請負構造とするのか。

 「経費削減と考えがちだが、そうではないだろう。電力会社は独占企業で競争がほぼ存在せず、いわゆる『人員整理』の経験もない。総括原価方式でコスト削減意識も低かった。『それは下請けに任せているから』と、安全配慮などの雇用者責任を負わなくていいことが、最大のメリットではないか」

 -どうすればいいか。

 「電力会社の姿勢が問われている。今どき、当然のようにこれほどまで多重の下請け構造が残っている業界は建設現場ぐらいしかない。電力会社は原発稼働に経営を大きく依存しているのに、足元の現場はあまりにも脆弱(ぜいじゃく)ではないか。製造業などでも『派遣切り』が問題となった後、直接雇用に切り替える反省がある程度働いた。電力会社に責任を負わせるため、元請けの子会社も含めて直接雇用を増やすべきだ」

 -そもそもが多重請負になっている建設現場。労働者派遣は、手配師などと称される中間搾取業者を余計に生んでしまう懸念があるとして禁止されている。

 「原発労働の大半が『建設業』に当たるとして派遣は法律で認められていない。ただ、電力会社に労働者の安全管理をしっかりさせるには例外として解禁することも選択肢に入れて制度を充実させたほうがいい。労働問題も原発の安全確保に直結しており、現状のままで再稼働を認めていいのか疑問だ」

 (竹次稔、岩谷瞬が担当しました)

 ◆九電「偽装請負はない」

 九州電力に対し、原発の労働現場で「直接雇用を増やすことを考えられないか」など質問したところ、以下の回答があった。

 原発の工事や作業は、原子力の品質が適切かつ十分に確保されるよう、元請けの協力会社などによって適切な体制を構築し、実施している。定期的にコンプライアンス(法令順守)教育も行っており、これまでも偽装請負は発生しておらず、直接雇用を増やす予定はない。大飯原発の偽装請負を受け昨年1月、すべての下請け業者に対し、元請け業者と同じように法令順守の義務を課す条文を契約書に追加した。

 ◆国は現場直視し対応を―記者ノート

 電力会社だけでなく元請け、下請け、孫請け…と多重の請負体制で成り立っている原発の労働現場。厚生労働省需給調整事業課に、緊急時、電力会社が下請け労働者に指揮命令することに違法性がないか、あらためて問うと「労働者の安全確保を最優先するため、指揮命令しても偽装請負と認定しない」と回答した。ただ同時に「あくまで例外で、普段は指揮命令できない」と強調した。

 だが原発事故は一般の労災とは決定的に異なることを、福島第1原発事故は示した。緊急時だけでなく普段から電力会社の下、組織的に一体になっていなければ対応は難しい。厚労省労働衛生課は昨年8月の通達で、電力会社に下請け労働者の氏名や住所などの基本情報を漏れなく入手するよう求めるなど、下請け管理の強化を指示した。

 厚労省の考えは請負体制を前提としたまま事故に備えようとしているため分かりにくい。このため、今回の連載の(上)で紹介したように、事故時も社員が元請けに現場で指揮命令することはない、といった不可解な九電の方針もでてくるのだろう。厚労省需給調整事業課は、事故時には指揮命令が避けられないことが想定されるため「電力会社に(現状の請負体制を)改善する道義的な責任がある」とも話す。

 東京大の縄田和満教授が指摘するように、原発の労働現場では派遣社員を認めるなど抜本改革が必要ではないか。指揮命令系統と責任の所在を一本化する請負構造の見直しは労働者の安全を確保し、事故の広がりを最小限に食い止めるだけでなく、原発運営の改善にもつながるだろう。

 一方、原子力行政を管轄する資源エネルギー庁や原子力規制庁は、どのような労働体制が適切か明確な方針を持っていない。原子力規制委員会が検討している原発の新たな安全基準は施設などのハード面が中心だ。政府は労働現場を直視し、考えることをおろそかにしてはならない。

 (竹次稔)

=2013/01/10付 西日本新聞朝刊=

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