【コーヒー日和 福岡の街角で】(1) 人がつながり合う場に

開店以来、こだわり続けるエスプレッソを出す西岡総伸さん 拡大

開店以来、こだわり続けるエスプレッソを出す西岡総伸さん

深夜までにぎわうマヌコーヒー春吉店

 高層ビルやマンションが立ち並ぶ無機質な周囲の風景とは裏腹に、この空間は温(ぬく)もりを感じる。福岡市中央区の渡辺通りから少し入った「マヌコーヒー春吉店」。ドアを開けると、香しい匂いが漂ってきた。

 〈ナカムラさん、元気しとった?〉

 〈体調ば崩しとったけど、平気よ〉

 約20人の客の会話が飛び交う。大学生、子ども連れの主婦やお年寄り…。カップを片手に、世代を超えた井戸端会議をしているようだ。

 店の代表を務める西岡総伸(そうし)さん(37)はこの光景を見つめると、こみ上げてくるものがある。

 「人と人がつながり合う店にしたかった。お客さまの笑顔を見ると店をやってよかったと思う」

 コーヒーで生計を立てようと決めたのは大学時代だった。就職活動に汗を流したが、企業の答えは「NO」。孤独感にさいなまれていたとき、米国シアトルのカフェでの体験が脳裏をよぎった。

 19歳の春。店に入ると「いらっしゃいませ」ではなく、いきなり「元気かい」と迎えられた。フレンドリーな姿勢に感動し、味わったコーヒーは一人旅の不安や寂しさを癒やしてくれた。「一杯のコーヒーに魅力を感じたことを思い出し、自分の生きる道が見つかった」

 大学を卒業すると、2003年に「マヌコーヒー」を始めた。開店当初は客の入りも悪く経営も悪化。店員の給料を1カ月遅らせてもらうこともあった。

 ただ、信念だけは曲げなかった。「もう一度行ってみたい雰囲気をつくることが大切。それには働く者の人間性が重要」。気軽に来てくれるようにと、率先して話し掛けると、日に日に客足が伸びていった。

 忘れられない出来事があった。05年3月に起きた福岡沖地震。おびえ震える人たちが店に集まり、励まし合った。「ここは私たちのよりどころです」。常連客から声を掛けられると、目頭が熱くなった。

 味を追求する姿勢は貪欲だ。栽培や収穫の方法などにこだわった高品質の豆「スペシャルティコーヒー」を使用。マシンで高圧をかけて抽出したエスプレッソは、これまでにない味を生み出し、「豆の特徴を最大限に引き出し、酸味と甘みを気づかせる衝撃の味。福岡に新しい歴史を刻んだ」と同業者たちをうならせた。このエスプレッソを飲み、業界に入った人も多く、マヌコーヒーは福岡の“顔”になった。

 11年5月には福岡市中央区大名1丁目に「大名店」をオープンした。若者の街ならではの「五感を刺激する店にしたい」と、スタッフと常連客で壁をレモンイエローに塗り、ランの原木などを配置。壁には地元アーティストのイラストなどを展示している。

 人は言う。「閉塞(へいそく)感が漂う時代だ」と。だから店に懸ける思いは強い。

 「人が集うコーヒー店があるから、地域が元気になると言われたい」

 きょうも大勢の客でにぎわう。ママ友の話し声が聞こえてきた。

 〈娘が卒園するとよ〉  〈うそやろう。時間がたつのって早いね~〉

 あちこちで会話が弾む。もっとコーヒーのことを知りたい-。平成に台頭した「マヌコーヒー」。ならば最古参は…。その思いを胸に“原点”の地へ足を運んだ。

   ※   ※

 目覚めの一杯! 語らいの一杯! ときたら欠かせない飲みもの。ホロ苦く、コクがあり、深みがあり、甘みもある。それは、まるで人生そのもの。記者が福岡市内を中心に街を歩き、コーヒーに魅せられた人たちの物語をつづっていきます。

=2013/02/27付 西日本新聞=

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