【コーヒー日和 福岡の街角で】(7) 喫茶店主の魅力を紹介

「福岡喫茶散歩」で取り上げた喫茶店の店主(右)と談笑する小坂章子さん 拡大

「福岡喫茶散歩」で取り上げた喫茶店の店主(右)と談笑する小坂章子さん

小坂さんが書いた福岡喫茶散歩など。韓国語版も出版された

 隣客の持っていた本が目に入った。福岡市内の個人経営の喫茶店40軒を紹介した「福岡喫茶散歩」(書肆侃侃房=しょしかんかんぼう=刊)。著者でフリーライターの小坂章子さん(38)が、本の持ち主の隣客に気付かれないように、私に照れくさそうに話を切り出した。

 「発刊して5年以上もたつのに、役立ててもらえて、うれしいですね」

 この日、訪れたのは同市中央区渡辺通の「珈琲ふじた」。彼女が取材で足を運んだ福岡市内の喫茶店の数は100軒以上。その中でも、お気に入りの店の一つだ。

 カウンター席に座って注文を済ませると、ベストにちょうネクタイ姿の店主との談笑が始まった。

 〈いつも身だしなみに気を付けられていますよね〉

 〈このちょうネクタイ、もう売られていないから大切に使ってます〉

 店主の何げないひと言にコーヒーへの思いが凝縮されていると思っている。

 「コーヒーをつくる人は、豆の焙煎(ばいせん)一つとっても、温度の1度の差や、時間の数秒の違いにこだわる。なぜ、そこまで没頭するのか興味は尽きません」

 喫茶店を巡るようになったきっかけは、2006年に書肆侃侃房の編集者と交わした会話からだった。「居心地の良い昔ながらの喫茶店のガイドブックがないよね」。実はコーヒーより紅茶が好きだった。喫茶店にはあまり行ったことがなかったが「話の流れから取材することになった」と、はにかんだ。

 約1年かけて、愛用の自転車で市内の喫茶店を約80軒回った。一番安いブレンドを頼み、店主の仕事ぶりを観察し、話を聞いた。

 「店によってこんなに味が違うんだとか、新しい発見ばかりで、はまりこんでいきました」

 07年に出版した「福岡喫茶散歩」はガイドブックにとどまらない。昭和40―50年代の喫茶ブームが過ぎ去ってもなお理想の一杯にこだわり、コーヒーに人生を懸ける店主たちのエピソードもつづった。版を重ね、7千部が発行され、韓国語版も出た。09年には、九州一円に枠を広げて「九州喫茶散歩」を出版した。

 ただ、本の売れ行きとは裏腹に、思いは複雑だった。「閉店したところが結構あるんです。街の明かりが消えてしまったみたいで、さみしい」

 福岡の喫茶文化を発展させるためにも、自分の仕事の先行きに疑問を感じていた。「店の紹介重視より、喫茶店主たちの人間性をより具体的に描きたい」

 10年11月、福岡の喫茶店主らと共に旅に出た。目的地はコーヒー豆生産国エチオピアのワユー村。コーヒー豆の生産農家と接する喫茶店主たちのしぐさや細かい言葉を漏らさないようにと、ビデオカメラで撮影した。計200時間を超える映像を2時間に編集し、初めての試みの映像作品の制作に取り組む。一方、「福岡喫茶散歩」の改訂版のほか、新たに喫茶店主に関する新著の企画も進めている。

 「これからも、己の信じたことを曲げずに貫き通す喫茶店主の職人肌に光を当てていきたい。ほんと、コーヒーに携わる人はいろんな経歴があり、魅力的な人が多いんですよ」

 この言葉を聞いて、次の取材対象者を誰にするのかのヒントになった。珍しい肩書を持つ人が、福岡にいるとの情報が入ってきた。

=2013/03/08付 西日本新聞=

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