【コーヒー日和 福岡の街角で】(8) “豆”のおいしさ伝える

 300グラムの生豆に、発酵した豆が1粒交ざるだけで、コーヒー全体に土やカビの臭いが付くという。豆の質を守るため、コーヒーの本場ブラジルには、欠点のある生豆を的確に取り除き、焙煎(ばいせん)後の味わいや香りの良しあしを見極める能力を認定する資格がある。

 「コーヒー鑑定士」だ。その資格を持つ“品質の番人”が福岡市東区松崎にいる。後藤文男さん(62)。1997年から住宅地の一角にある豆小売店「街の珈琲屋さん」の代表を務め、厳選した豆を提供している。

 鑑定作業の一端を見せてもらった。粉状にした豆をカップに入れ、お湯を注ぐ。まず、湯気と一緒に立ち上る香りを確認。スプーンですくって口に運び、酸味や苦味などを分析する。

 豆の特徴を見定め、独自のブレンドをつくっている。地元・松崎中学校の正門から校舎へとつながる桜並木の名前をつけ、子どもの元気な感じを思わせる「チェリー・ロード」、ゆったりと流れる近くの川をイメージして濃厚な味に仕上げた「多々良川の詩」…。豆を買いに来る地域の人たちが味のイメージを描けるように心掛けている。

 大学卒業後、コーヒー会社に就職。大卒は営業職に配属されるのが通例だったが、コーヒーを知りたいと、社長に直談判して工場勤務に。喫茶店やホテルなどに販売する商品の開発を担当した。

 35歳で鑑定士の資格を取るため、単身ブラジルに渡った。100日間、ブラジル全土の農園から送られてくる生豆から欠点のある豆をえり分けたり、味、香りを判別したりする訓練を続けた。

 「あれほど集中してコーヒーを口にした期間はないですね。あの経験が財産になっています」

 ブラジルのほか、中米のエルサルバドルの農園にも足を運んだ。コーヒー産地は貧しい国が多い。人手がいる農園は子どもも貴重な労働力。小学校低学年ぐらいの子どもたちが、はだしで木に登り、赤いコーヒーの実を摘む姿が今も強く印象に残っている。

 鑑定士の資格を取って10年後に会社を辞め、今の店を構えた。「世間に知れ渡っていなくても、おいしい豆があることを伝えたい。それが現地で一生懸命つくっている生産者たちの頑張りに報いること」

 年に2、3回、宗像市でコーヒー教室を開き、入れ方を伝授している。「誰が入れても一定の味になる」と勧めるのが、紙製のフィルターを使ったペーパードリップ。「透明感があり、口当たりのいいコーヒーになる」と実演してくれた。

 まず準備として豆の1人分は10グラム。「普段使っている計量スプーン1杯分が、何グラムかを計量器で量ると目安が分かる」と優しく教えてくれた。

 いよいよ本番だ。コーヒー粉の山にくぼみをつくり=写真(1)、沸騰したお湯を中央から粉全体を湿らす程度に入れていき、30秒ほどコーヒー粉を蒸す=同(2)。フィルターの上端から約2センチ下の辺りで、水位を保つように注ぎきれば=同(3)、3分以内で出来上がる理想的なコーヒーが完成だ。

 「入れ方のほかに、おいしいコーヒーを味わう秘訣(ひけつ)を教えましょう。お気に入りのカップで、大切な人とゆっくりと飲むことです」。鑑定士はガッハッハと笑った。

 店を後にして、バスに乗った。高校生が世界地図を手にしていた。それを見てコーヒーを通して世界に目を向ける「ある人」が脳裏をよぎった。

=2013/03/09付 西日本新聞=

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