【コーヒー日和 福岡の街角で】(10)福岡から物語を発信

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コーヒーを飲みながら次回作について話す岡崎さん

50万部を超える売れ行きの「珈琲店タレーランの事件簿」

 西鉄福岡(天神)駅で各駅停車の電車に乗り込み、文庫本に目を通す。京都の喫茶店を舞台にしたミステリー小説「珈琲店タレーランの事件簿 また会えたなら、あなたの淹(い)れた珈琲を」。著者の岡崎琢磨さん(26)ってどんな人なんだろうと、目的地の太宰府市に向かった。

 「わざわざ遠くまですみません。迷いませんでしたか?」。作家というと気難しそうなイメージを持っていたが、物腰が柔らかくて優しそう。印象を伝えると、笑顔を返された。

 物語はコーヒーを入れる専門家の女性が、1人の青年が持ち込む謎を店内で解き明かす内容。昨年8月に出版され、現在50万部を超えるベストセラーだ。

 主人公は福岡市内の人気カフェで働く女性がモデル。2010年に市内であったドイツのビールなどを紹介するイベントで知り合い、仕事の話を聞くうちに、想像力が刺激されたという。「男性的なイメージのある職業にかわいらしい女性が就いている。そのギャップが面白いと思って」。大ヒット作の裏には、福岡のカフェの存在があったのだ。

 福岡市内の高校を卒業後、京大法学部に進学。高校時代から、ロックバンドのギターとボーカルを担当していた。大学4年のとき、「音楽で食べていくのには限界がある」とバンドを解散。1人で創作できる作家を目指すことにした。

 大学卒業後、故郷の太宰府市に戻り、父の実家の寺で経理や庶務の仕事をしながら小説を書いている。原稿を書くのは仕事を終えた午後5時以降。市内の自宅に戻ったら、頭を切り替えて小説の世界に向かうため、自分で入れたコーヒーを飲むのが日課だ。

 自室の棚には数種類の豆が並び、手でハンドルを回して豆をひく「ハンドミル」、高圧の蒸気でコーヒーを入れる「エスプレッソマシン」…。コーヒーを入れる道具がそろう。作中にはおいしそうなコーヒーの描写が出てくるが、「文章ではコーヒーを入れる場面を書けても、実際においしく入れるのは難しいです」と苦笑いを浮かべた。

 実は、デビュー作の「珈琲店タレーランの事件簿」の執筆を始めるまでは、特にコーヒーに詳しくはなかった。

 「喫茶店を取材し、自分で入れるうちに、すっかりコーヒーにはまりましたね」

 デビュー作は、あるこだわりを持って書いた。謎解き役の女性の名前「切間美星」はコーヒー豆のキリマンジャロが由来。他にも「小須田リカ」(コスタリカ)など、主要な登場人物の名前はコーヒー豆の種類や産地から名付けた。

 喫茶店はミステリーの舞台に最適だという。「毎日いろいろな人が訪れ、1人で読書をする人や店主に人生相談をする人もいる。何か起こりそうな場所なんです」

 これから先も、喫茶店をテーマに書き続けていく予定。「福岡は子どものときから過ごしてきた街。恩返しができるようになりたい」と、近い将来は福岡を舞台にした作品を手掛けるという。

 果たしてどんな小説になるのだろうか。場所は天神か赤坂か。主人公は女性か男性か-。わくわくする。福岡市内に戻り、あるカフェに立ち寄った。コーヒーの表面に描かれた芸術的な“イラスト”に、胸が熱くなった。


=2013/03/14付 西日本新聞=

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