【コーヒー日和 福岡の街角で】(14)記者ノート

数秒の違いで味が変わる焙煎作業 拡大

数秒の違いで味が変わる焙煎作業

入れる人の「生き方」が凝縮されたコーヒー

 「パチッ」。コーヒーの生豆を焙煎(ばいせん)機に入れて十数分。熱で膨張した豆が勢いよくはじける音が鳴りだした。

 取材で出会った多くの人たちがこだわる焙煎作業を体験しようと、2月末に福岡市内のコーヒー店が開いた教室に参加した。豆がはぜる音がいったん静まる。1、2分後、今度は「ピチピチ」と小さい音。豆が発する2度の“声”に耳を傾け、参加者が各自の判断で豆を取り出した。1分違うだけで味は一変。どれもおいしく、一番を決められない。

 「1分どころか、数秒の違いで味は別物になります」。指導してくれたコーヒー店代表の言葉に、深遠なコーヒーの世界が垣間見えた。焙煎だけでも時間、豆の質、温度…。選択肢は無限に広がる。職人はその中から自分がひかれ、信じるコーヒーを磨く。「珈琲美美(びみ)」店主の森光宗男さんの言葉を思い出した。「情熱で焙煎しているんです」。カップの中に生き方が凝縮されている。

 コーヒーへの思いは、店名にもにじむ。初回に紹介した西岡総伸さんの「マヌコーヒー」は、「手を使って作る」という意味の英語「manufacture(マニファクチャー)」から名付けた。西岡さんは「一杯を丁寧に、心を込めて提供したいという思いを込めた」と説明した。

 繰り返し飲んでもらいたいと、英語で「再び」などの意味の「RE」を選んだのは、県外出身の岩瀬由和さんと北添修さんが始めた「REC COFFEE(レックコーヒー)」だ。

 変わった店名を付けたのは、コーヒー鑑定士の後藤文男さん。「初めてコーヒーが好きになったきっかけが、住んでいる街のコーヒー屋さんであってほしい」と「街の珈琲屋さん」と名付けた。

 福岡のコーヒー文化の特徴は「横のつながりの強さ」だった。30~40代の若手たち二十数人が店が終わった後に集まり、焙煎方法や新しい豆の情報交換をするなど、協力しながら全体のレベルアップを図っている。

 「あの店に行ったことある?」。店で話を聞いていると、必ずといっていいほどお薦めの店を紹介された。取材中に「他の店から紹介された」と客が来店する場面にも何度か遭遇した。偶然、居合わせた客がコーヒーで結びついていく様子も目にした。

 「コーヒー日和」の取材を通して思ったのは、店主やコーヒーに携わる人の情熱が、新たなつながりを生むということだ。それが街の居心地を良くする「温(ぬく)もり」になると強く感じた。

 =おわり

 (この連載は佐々木直樹、国領美歩、森田明理が担当しました)

=2013/03/21付 西日本新聞朝刊=

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