【累犯を断つ】(1)刑務所でしか暮らせない

 淡々と読み上げられる21回目の有罪判決を、白髪頭をうなだれるようにして聞いた。被告人を懲役2年に処する-。

 5日、福岡地裁の3号法廷。常習累犯窃盗の罪に問われた浅井実(79)=仮名=は、裁判官の高原正良(63)に「分かりましたか」と問われ、初めて顔を上げた。「年を考えて、本当に最後にしなきゃいけませんよ」。こう諭されても「はぁ」と答えるだけだった。

 佐賀県に生まれた。小学校を出て、家業の自転車店の手伝いや建設現場で働いた。生活に困ると物や金を盗んだ。20歳すぎから刑務所と社会を行き来している。両親は他界、兄とも数十年、音信不通。調書で「天涯孤独の身です」と述べ、路上生活の根城にしていた福岡市の公園を「実家のようなもの」と言った。年が明ければ80歳になる。

 11月14日の初公判。孫ほど年の離れた検察官の女性に「刑務所で人生を終えてしまう可能性もありますよ」とただされた。間を置いてやっと出たのも「はぁ」。

 1年前。取材で訪れた佐世保刑務所に浅井は服役していた。

 「人間、飯を食うためには働かないかん。(泥棒は)仕事と同じ。食べるためですけん」。高齢者や障害者が集まる「13工場」で記者にこう話した。出所を半年後に控えても「(その後のことは)特に考えていません」。視線は合わせず、しわが刻まれた手を何度もこすった。

 刑務作業で得た6万円弱を手に6月に出所。3カ月後には空腹に耐えきれず、福岡市の寺で現金3千円を盗もうとして現行犯逮捕された。

 福岡拘置所のアクリル板越しに浅井に再会したのは、判決を数日後に控えた日。またも罪を重ねたことに「それはそれはすいません」と笑みを浮かべ、娑婆(しゃば)で楽しかったのは「酒が飲めて、たばこが吸えたこと」と言った。

 判決後にあらためて面会し、17回目の服役に臨む心境を聞くと「(懲役2年は)長い感じがしたですねぇ」と疲れた顔を見せた。1年前と同じ質問をした。出所後の生活は-。抑揚のない言葉だった。「はぁ、ゆっくり考えます」

 9月中旬、福岡東署の接見室。初めて会った浅井の言葉を弁護士(33)はよく覚えている。

 「先生、たばこください」

 「(逮捕されて)あちゃーと思う半面、ほっとしました」と話す浅井。また刑務所に行くことが本人のためだろうか。弁護士は思った。

 ただ、浅井は過去10年で3回以上懲役刑を受けており、法の規定では3年以上の懲役となる。実刑は避けられない。せめて短くできないか。生活保護申請の手続き書と便箋、封筒を差し入れ、反省文を書くよう促した。

 届いたのは「生活保護までの流れ」と書かれ、差し入れた資料を書き写した便箋。反省の文字はどこにもなかった。

 「ああまたか、と思います」。裁判官の一人も言う。万引や無銭飲食など高齢者の犯罪が増え、軽微な罪を繰り返す累犯が後を絶たない。「執行猶予を付けてあげたいけど法律でできない。選択肢は限られます」。同じ裁判所で、同じ高齢者に二度、三度と懲役刑を言い渡すこともある。

 「裁判官も、むなしいんですよ」
(敬称略)

 ▼増える再犯者 2011年の犯罪白書によると、10年に検挙された再犯者は全国で13万7千人。検挙された人全体に占める比率(再犯者率)は42・7%で過去最多となった。刑務所に入った人のうち再び入所した人の比率(再入者率)は56・2%。政府は10年12月、再犯者による犯罪が社会に大きな影響を及ぼしているとして、警察庁、法務省、厚生労働省などの関係機関による「再犯防止対策ワーキングチーム」を設置、刑務所出所者の再犯防止に向けた取り組みの検討を進めている。

         ◇          ◇

 刑務所が「姥捨(うばすて)山」のようになっている。

 チョコレート1個の万引、無銭飲食といった軽微な犯罪を繰り返して入所する高齢者。服役の意味を理解していない知的障害者。命じられるままに単純作業を続ける日々を過ごし、社会に帰っても行き先はなく、生活困窮の末、再び罪を犯してしまう。

 罪を犯した人が適正に処罰されなければ刑罰の公平性を損ねるし、社会の秩序は保てない。自業自得との見方もあるだろう。しかし、彼ら累犯者は「凶悪なモンスター」とは限らない。刑務所で働く福祉のプロの一人は、受刑者を「かわいらしいおじいちゃん」と呼んだ。福祉の網から漏れ、刑務所だけが彼らを拒まない場所になっている。

 刑事事件の捜査・裁判には1人当たり2千万円、刑務所生活は1人当たり年間300万円の税金がかかるという。福祉施設で受け入れるよりコストは高い。私たちは、こうした現実とどう向き合えばいいのか。

 内閣府の世論調査(2009年)では、罪を犯した人の社会復帰を支援する活動について、回答者の5割が「協力する気持ちはない」と答えた。できることなら関わりたくないという正直な気持ちだろう。

 一方で裁判員制度導入後、一定期間は生活態度などの指導を受けることを義務付ける保護観察付きの執行猶予判決が増えている。自分たちが裁いた被告の「服役後」に関心が向きつつある。

 福岡地裁で裁判員を経験した女性は、法廷で見た被告の印象を「『いかにも犯人』ではない、その辺にいる普通の方」と表現した。犯罪は私たちの身の回りで起きている。

 罪を犯した人はいずれ地域に戻ってくる。「1人で反省はできる。しかし、更生は1人ではできない」(犯罪学者)。ただ嫌悪し、社会から排除するだけでは、刑務所と娑婆(しゃば)を行きつ戻りつする「負の連鎖」は断ち切れない。

 刑罰の意味とは何か。刑事司法は、社会はどう変わるべきなのか。さまざまな角度から「罪と更生」について考えたい。

(「罪と更生」取材班)

=2011/12/14付 西日本新聞朝刊=

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