【累犯を断つ】(2)見逃されてきた障害

 支離滅裂な文だった。

 「私はありがとうです/私を仕事がしたいです/私に東京駅横兵駅を保護行きます/私は窃盗をアパート悪いすみません/私は元気ですか」

 福岡高裁で14日、懲役10月、保護観察付き執行猶予5年の判決を受けた村木道夫(64)=仮名。傘を使って鍵を開ける手慣れた手口でアパートに侵入、金を盗んだ。福岡県弁護士会の当番弁護士の依頼が山西信裕(36)に届いたのは2月下旬だった。依頼書には「容疑者は耳が聞こえない」とだけあった。

 早良署に赴くと、村木は笑っていた。「横浜で遊びました」「青森に行って楽しかったです」。筆談の紙に、脈絡のないことを書いた。

 手話通訳士を伴い接見を重ねた。村木は通訳の手話を繰り返すばかり。数十分かけて一つ、二つと認否を確かめた。「手話だとこんなに通じないのか」と山西は思った。

 村木は盗みの罪でこれまで19回服役した。聴覚障害があり年金は受けていたが、他の障害はないものとされていた。

 裁判を前にした謝罪文として、冒頭の手紙が送られてきたのは3月上旬。「手話だから意味が通じないのではない。障害があるんじゃないか」。山西ははっとした。

 「手話や筆談でも十分なコミュニケーションがとれない。黙秘権などの意味を理解しているとは思えない」。山西は福岡地検の担当副検事に謝罪文を添えて意見書を書いた。刑事責任能力を慎重に判断するよう求めた。

 副検事はそっけなかった。「そんなに変ですかねぇ。筆談と手話で何とかなってますよ」

 3月下旬、地検の簡易鑑定で、村木の軽度の知的障害が判明した。過去の捜査でも裁判でも見逃されてきた障害。たった40分の検査で分かった。

 療育手帳も持たず、家族の支えもない。「刑務所ではなく、福祉の支援で更生させたい」。山西は不起訴処分を求めたが起訴となり、一審の裁判を迎えた。検察側が法廷に提出したのは理路整然とした供述調書だった。「料理、洗濯を自分でしていました…自分で買い物に行っていました…これから裁判があります」

 謝罪文との落差に、山西はがくぜんとした。判決は懲役10月の実刑だった。

 福岡市東部のマンションであった打ち合わせは熱気に満ちていた。一審判決から1週間たった7月上旬。

 「犯行は巧妙だが、知的障害の人は体験で覚える。福祉も司法も救いの手を差し伸べなかった。これは社会の問題です」。協力を申し出た社会福祉法人南高愛隣会(長崎県)の専務理事酒井龍彦(53)が、村木の置かれた深刻な状況とあるべき今後を語った。

 村木はその後の検査でより重い知的障害と分かり、保釈後は愛隣会の関連施設で暮らし手話も上達した。一、二審で通訳をした女性は「二審では顔色が良くなり、手話もスムーズだった」と驚く。執行猶予をつけた福岡高裁の裁判長陶山博生(63)も、村木の変化を感じ取った。

 11月1日、福岡県弁護士会館であった勉強会で山西は声を上ずらせた。「(障害を)知らなければ、救えるはずの人を放置してしまう」

 日々逮捕される人の中に、第二、第三の村木が潜んでいると思う。
(敬称略)

 ▼受刑者の知能指数 法務省の矯正年報によると、2010年に刑務所に新たに入所した受刑者2万7079人のうち知的障害者は218人(0・8%)。ただ受刑者の知能指数(IQ)をみると、知的障害の可能性があるとされるIQ69以下が6123人(22・6%)。テスト不能とされた1173人(4・3%)を含めると7296人(26・9%)となる。IQ69以下の受刑者で多い罪は、窃盗(2773人)、覚せい剤取締法違反(894人)、詐欺(472人)など。

=2011/12/15付 西日本新聞朝刊=

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