【累犯を断つ】(4)「安住の地」を探して

 つえをつき、右足を引きずって福岡刑務所の門を出た宮本良明(43)=仮名=に、伊豆丸剛史(35)は声を掛けた。

 「檻(おり)の中の生活はもうやめましょう。力貸しますよ」。4度目の服役にして、この日初めて「出迎え」を受けた宮本は表情を緩ませた。2009年の秋のことである。

 伊豆丸は長崎県地域生活定着支援センターの職員。福祉サービスが必要な受刑者を見つけ、出所後の行き先を探すのが仕事だ。宮本とも何回も面会を重ねていた。

 宮本は23歳のとき、交通事故で右の手足に障害を負った。料理人の職を失う。妻は去った。金が尽きれば無銭飲食して服役-。そんな半生を聞いた伊豆丸は、長崎県内の社会福祉法人が運営する更生保護施設に入所させた。

 伊豆丸の仕事はそれで終わらない。

 宮本は他の入所者と折り合いが悪く、何度もいざこざを起こした。「困ってます。来てください」。施設職員からの電話で駆けつけた伊豆丸は宮本に問うた。「刑務所に戻りたいんですか」

 宮本はある日、自ら姿を消す。ホテルに40日連泊し、パチンコやスナックに通い、服役中にためた障害年金100万円を使い果たした。所持金400円になって交番に行き「無銭飲食するけん、捕まえてくれ」と騒いだ。

 「もう一回人生やり直しましょうよ」。伊豆丸はその度に繰り返した。

 定着センターが全国に設置され始めて2年が過ぎた。刑務所から社会に放り出されていた累犯者にとって、支援はこの上ない安心材料だ。ただ、出所した当初こそ更生意欲が強くても、宮本のように暮らしが安定しない人もいる。

 「その人は、うちの自治体の住民とは認めません」。受話器の向こうで響く自治体担当者の声。福岡県地域生活定着支援センター所長の仰木節夫(69)は「またか」と思う。

 生活保護や障害年金の手続きは居住地の市町村が受け持つが、服役を繰り返す累犯者には住民票がないことが多い。福祉サービスを提供するとなると市町村は年間200万円程度を負担しなければならない。財政難の自治体は押し付け合う。「刑務所がある自治体が責任を持つべきだ」「いや、受け入れ施設のある自治体だ」-。

 仰木の悩みはそれだけではない。福岡の定着センターは職員4人で100人ほどを担当する。九州最大規模の福岡刑務所の出所者を考えると、来年はもう100人が対象に加わりそうだ。

 「限界寸前です」。仰木は頭を抱える。

 施設で延べ1年過ごした宮本はいま、伊豆丸の用意したアパートに独りで暮らす。

 この間、交通事故による脳の損傷によって欲求や感情のコントロールが難しい高次脳機能障害と診断された。伊豆丸は福祉機関を巻き込み、金銭管理、生活の介助など支援を続ける。「伊豆丸さんがいなければ、今ごろまた刑務所の中です」。宮本はそう言う。

 今月上旬のある夜。居酒屋で支援者たちが宮本を囲み、談笑した。

 支援がうまくいくとは限らない。ある者は再犯に走る。でも伊豆丸は失望しない。「再犯までの期間が延びるだけでもいいんです」
(敬称略)

 ▼地域生活定着支援センター 刑務所や少年院などの矯正施設から出所する高齢者や障害者の社会復帰を促し、再犯を防ぐ役割を担う。自立生活が難しく、帰る場所がなく、支援を希望する人が対象。出所前から職員が面談して支援策を練り、療育手帳取得などの手続きや受け入れ施設を探す。施設への助言や対象者の面談などフォローアップも担う。2009年1月に長崎県で試験的に始まり、同7月から厚生労働省の補助事業として導入。45都道府県が既に開設し、本年度中に全都道府県に設置される見通し。

=2011/12/17付 西日本新聞朝刊=

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