【累犯を断つ】(7)地域の理解があれば

 天気のいい日は図書館に行く。自分の部屋ではテレビを見たりCDを聴いたり。衣笠正憲(69)=仮名=は、食事や健康管理のサービスがある長崎県南部の高齢者用の賃貸住宅に住む。

 「すっかり普通の暮らしです。もう罪を繰り返さないと思います」。刑務所を出て3度目の正月を迎えようとしている。

 無銭飲食などを重ね、11回目の服役中に心筋梗塞で倒れた。更生保護施設に入った後は高血圧やC型肝炎が見つかり、入退院を繰り返した。毎日12種類の薬を飲む。

 ベッドに腰掛けてボールペンを走らせる。『ごえんがなかったら…のたれじにしていたかもしれません。心からかんしゃをしています』。年下の更生保護施設長を「おやじさん」と呼び、幸せな日々を伝える手紙は50通を数える。

 感情が噴き出すこともある。ルールを破って自室で料理を作ると言い張り、静かに暮らす隣人がうるさいと言っては壁を激しくたたく。周囲に暴言を吐いたこともある。

 「福祉の使命と思って引き受けましたが、ギリギリで支えてます」。住宅を経営する男性(52)は苦笑する。「ここで生きる喜びを持ってもらえればいいんですが」

 罪を犯した人を受け入れることに抵抗感を示す福祉施設は少なくない。ましてや被告席に座るとは-。

 大阪府八尾市の社会福祉法人ゆうとおん理事長の畑健次郎(64)は5年前を思い起こす。2007年1月。3歳の男の子が歩道橋から投げ落とされて大けがをした。逮捕された吉岡一郎(46)は知的障害があり、ゆうとおんの授産施設に通っていた。被害者側は服役した吉岡に加え、畑の監督責任を問い損害賠償を求めて提訴した。

 吉岡には子どもを連れ回して服役した過去があった。「リスクのある人をほったらかせば再犯の危険は高くなる」。畑の思いは変わらない。ただ見守るにも限度がある。行動を逐一監視することが福祉の仕事だろうか。

 和田健(33)=仮名=が車内からポーチを盗んだと聞いたとき、川崎雅之(42)=仮名=は「もったいない」と思った。せっかく頑張ってきたのに、と-。

 川崎は福岡県筑後地方で農業を営む。地元の福祉関係者の支援を前提に昨年12月から和田をアルバイトで雇っていた。軽度の知的障害があり、少年時代から盗みを繰り返した和田だが、きちんとあいさつし、作業も真面目にこなした。そろそろ難しい仕事も任せよう。逮捕は、川崎がそう考えた3月のことだった。

 裏切られた。でも、あきらめきれない。「かわいいんです。引かれるとこがある。できれば更生する姿を見たい」

 累犯を断つために、司法と福祉をつなぐ試みは始まったばかり。これに地域の理解とさりげない見守りが加われば、今度こそ、和田も何とか立ち直れるのではないか。

 10月末、福岡刑務所で川崎は和田に面会した。「またうちで働くか」。和田はうなずいた。春が来ると地域に戻ってくる。
(敬称略)

 ▼社会内処遇 罪を犯した人を刑務所などの矯正施設に収容するのではなく、地域社会で適切な監督や支援、サービスを受けながら罪を償い、更生を図ってもらう考え。国内では、一定の順守事項を示して指導・監督、支援する保護観察制度が代表的。服役よりも国の経費が少なくてすみ、再犯防止に不可欠な就労支援など多様なサポートができる利点がある。英国やノルウェーは、拘禁刑に代えて社会での活動を命じる「社会奉仕命令」「社会内刑罰」などを導入している。

=おわり

(相本康一、久保田かおり、鶴加寿子、中原興平、四宮淳平、久知邦、山口新太郎、コラージュは下川光二、大串誠寿、茅島陽子が担当しました)

=2011/12/20付 西日本新聞朝刊=

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