【再起を支える】(2)何度裏切られても… 保護司

 「彼女を紹介したいんです」。待ち合わせた食堂に、若者は交際中の女性を連れてきた。

 ある事件で逮捕された若者は、社会で暮らしながら生活の指導を受ける保護観察中だった。紹介した解体業の会社でまじめに働き、立ち直り始めているように見えた。「しっかり頑張らないかんよ」「はい」。ささやかな楽しい会食だった。

 数年後。新聞に若者の名前があった。ガソリンスタンドから金をだまし取ったとして詐欺容疑で逮捕されていた。

 また裏切られた-。福岡県内で保護司を務める元小学校校長の谷本義三(76)=仮名=は、いまも苦々しく思う。

 保護司は無給のボランティアだ。刑務所から仮釈放された人や保護観察処分の少年などの「対象者」と月2回、自宅で面接したり、相手方を訪ねたりして生活を見守る。

 保護司を引き受けて17年。保護観察が縁で、仲間の保護司と招かれた結婚披露宴のことを谷本は忘れられない。

 新郎は高校時代、嘱望されるスポーツ選手だった。身体を壊して夢を見失い、非行に走り、覚せい剤に手を出した。2度目の服役後、ようやく定職に就いて働き始めた。そして挙式-。新婦のおなかには新しい命が宿っていた。

 息子の晴れ姿に目を潤ませる両親。あいさつを頼まれたが、祝宴で保護司とは明かせない。「教師時代に担任でして…」とうそをついた。

 いま、その「教え子」は再び覚せい剤に手を出し、服役している。

 「だまされてばかり。何度辞めようとしたか」

 保護観察中、面接の約束を破ったり許可なく旅行に出たりすると仮釈放が取り消されることがある。「だから対象者の大半は私たちに従順だ」とベテラン保護司は言う。

 とはいえ、トラブルもある。2010年7月、茨城県桜川市で、保護司の自宅が対象者の15歳の少年の放火によって全焼した。

 「金に困って、わが家に来たりしないだろうか」。熊本県に住む保護司の男性は、対象者を迎え入れるたびに心がざわめく。自宅には親も妻も娘もいる。「家族は、保護司を続けることに反対です」と打ち明ける。

 《明日13時で大丈夫ですか?》。九州北部で保護司を10年続ける中山信宏=仮名=のスマートフォンに、窃盗罪で保護観察付きの執行猶予となった青年からメールが届いた。《待っています。》と返信を打つ。

 「最近の子は何でもメールでしょ。気持ちを開かせるには新しいツールも使わなきゃ」

 この青年を担当するのは少年時代を含めて2度目。また罪を犯さないか心配だが「電気工事の資格をとりたい」と言い、部屋を訪ねたら参考書が並んでいた。今度こそ、と中山は期待している。

 「メールやら分からん」とぼやく高齢の保護司もいる。薬物やアルコール依存症など難しい対象者が増え、保護司の負担感は強まるばかり。それでも続けるのは喜びがあるからだ。

 「先生!」。散歩していた谷本は、作業服の男に声をかけられた。かつて担当した若者だった。「きつかばい」。泥んこの顔に汗が光った。

 「その笑顔が美しくてね」。谷本は目を細めた。
(敬称略)

 ▼保護司の現状 法相から委嘱を受ける非常勤の国家公務員。定員は全国で5万2500人。今年1月1日現在の実数は4万8221人。平均年齢は64・1歳。高齢化傾向にあり都市部ではなり手が不足している。交通費など実費の支給はあるが、仕事そのものは無給。10年の保護観察取扱数は9万3652件。法務省によると、自宅で面接中に席を外した際、対象者から現金を盗まれるなど5件の被害が報告された。本年度から保護司の物的損害を補償する制度ができた。

=2012/04/18付 西日本新聞朝刊=

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