【再起を支える】(4)見極めたい「保護力」 生活環境調整

 九州のある街に住む保護司、上杉哲哉=40代、仮名=のもとに一通の書面が届いた。

 《本人は実母に身元の引き受けを希望しています。意思確認願います》

 保護観察所長名の「通知書」。「本人」とは刑務所からの仮釈放が検討されている50代の男のこと。こうも記されていた。《実母が認知症なら引受人としては不十分…》

 報告期限は1カ月後。上杉は腰を上げた。昨年末のことだ。

 保護司の仕事は保護観察を見守るだけではない。仮釈放や少年院を仮退院する前提として、帰住先となる身元引受人の意思を確認する「生活環境調整」も役目だ。

 立ち直るには家族の支えがあった方がいい。「引受人の『保護力』を見極めるのが最大の使命」と上杉は話す。

 少年時の窃盗罪で服役している若者のときは、罪を犯した背景を父親に聞いた。

 「息子はゲームにはまった頃から遊び歩くようになった。金欲しさから犯行に手を染めたと思います。本当は優しい子…。更生を助けたい」

 迎え入れた後のことを真剣に考えているようだった。上杉は《帰住先として問題ない》と報告書に記入した。

 保護観察所からの質問事項は多い。家族の仲、年収、持ち家か賃貸か、部屋の数…。「まるで調査員でしょ」。上杉は苦笑する。

 「息子が刑務所に入っとるときは天国。帰ってきたら地獄です」。ある受刑者の母親の言葉に、福岡県内で保護司を務める小林悟(65)=仮名=は言葉を失った。

 覚せい剤との決別を誓っても、出所すれば昔の仲間に誘われる。わが子の更生を信じたいが、また金をむしり取られたり暴力を振るわれたりしないか-。引き受けるか否か、家族は揺れ動く。

 引受人は老いた母親と思っていたところ「私が迎えに行きます」と暴力団員風の男が現れたこともある。「足を洗ったと聞いていたのに」。調査は容易ではない。

 3月上旬、福岡刑務所。「入ります!」。受刑者の男がまた一人、保護観察官の待つ部屋に入った。背筋を伸ばし、観察官の言葉にうなずく。

 仮釈放に向けた面接の第1段階だ。「対象になるのは、素直でまじめにやっている人間ばかり」と刑務官。所内での態度が「優良」と認められる受刑者が選ばれる。

 だが、中には再び罪を犯す者がいる。仮釈放された途端に豹変(ひょうへん)し「刑務所では、お利口さんにしとると3カ月か半年、早く出られるもんね」と得意げに話すのを小林は聞いたことがある。

 3月上旬に福岡県であった保護司会の研修会。「家族の苦悩を報告書に書いても、その思いが本人に伝わっておらず、更生につながっていない。刑務所は報告書を読んでいるのでしょうか」。小林の仲間から噴き出した不満に、講師役の保護観察官は率直だった。「出所後の引受人がいるかどうか、それだけを見ているのではないか」

 母親は認知症なのか。引受人にふさわしいだろうか。上杉は1月末まで、母親が暮らしているはずの家を何度も訪ねたが会えなかった。仕方なく、報告書の「調査継続」を○で囲んだ。

 今のところ再調査の依頼はない。
(敬称略)

 ▼生活環境調整と保護司 生活環境調整で保護司が調査するのは、近隣の風評、交友関係、釈放時の出迎えの有無なども含まれる。保護司作成の報告書は保護観察所を通して地方更生保護委員会や刑務所・少年院にも送られる。引受人の意思が確認できないと仮釈放・仮退院は認められない。対象者が社会に出れば、調査した保護司がそのまま保護観察を担当することが多い。2010年の生活環境調整の件数は約11万。過去10年は横ばいだが、対象者の家庭環境が複雑化して保護司の負担は増したとの声もある。

=2012/04/20付 西日本新聞朝刊=

PR

PR

注目のテーマ