【再起を支える】(7)数字で表せない使命 更生保護施設

 3月の平日の午前。秋本雄一(65)=仮名=は、こたつに横たわってテレビを見ていた。6畳の2人部屋。簡易ベッドが二つ並んでいる。

 ここは、刑務所を出ても頼る先のない人を一時預かり、泊まる場所や食事を提供する更生保護施設「筑豊宏済(こうさい)会」(福岡県飯塚市)。

 施設長の江崎博信(64)が部屋に入った。「どうぞ」と言う秋本は体を起こせない。翌日の病院も付き添ってもらわないといけない。「迷惑ばっか掛けてます」。ちょこんと頭を下げた。

 生活苦から鶏の空揚げなどを盗んで服役した。刑務所では下痢が止まらず、おむつを着けられた。1月に仮釈放されて筑豊宏済会に入所したとき、頬はこけていた。数日後に受診。大腸がんが見つかった。通院により抗がん剤を受けている。

 頬もふっくらしてきた秋本を、江崎がからかった。「ここに来てなかったら、また刑務所に行ってたか孤独死しかなかったな」。「そげです。感謝、感謝です」。秋本は拝むしぐさをした。

 高層ビルが林立する大阪市北区。更生保護施設「和衷(わちゅう)会」は9階建てのビル。収容定員は国内最大の110人だ。殺人などの重い罪を犯した人も受け入れる。北海道から鹿児島まで24カ所の施設に断られて来た人もかつていた。「最後のとりでです」。施設長の加藤吉宏(68)は言う。

 外山勝二(61)=仮名=のベッドは薬袋があふれている。糖尿病に加え、血を造る骨髄に異常がある病気も仮釈放後に判明。余命3年と言われた。1~2週間に1度の輸血が欠かせず、頑張っていた職探しはやめた。

 秋本や外山のような入所者は例外ではない。刑務所に高齢者や障害者が増え、更生保護施設も同じ状況にある。仕事を見つけて自立するのを助けるという本来の役割は過去の話になりつつある。

 高齢者が2割以上の和衷会は、2009年に高齢者・障害者専用フロアを造った。廊下に手すり、車椅子で入れるよう居室の扉は引き戸にした。

 「施設が福祉に近づいたというより、福祉そのものになっている」。加藤はこう表現する。職員の負担も増えている。

 変化はそれだけではない。「10年度の収容率86%。11年度は90%を目指して…」。定員に対する受け入れ率を上げるよう、施設ごとの数値目標が法務省から示されるようになった。

 全国に現在104ある更生保護施設の運営費の大半は国からの委託費。再犯率を下げるため、更生保護施設や保護司などの支援がある仮釈放者を増やしたい国は、08年度に33億円だった委託費を23年度には46億円に増額した。「使命を果たすべきだ」と法務省幹部は迫る。「数字ありきで、支援が“処理”にならないか」と施設側は漏らす。

 少年専門の「泉州寮」(大阪府)の施設長藤本昌夫(65)も困惑する。3月、見学の保護司に窮状を訴えた。

 「幼稚化して手が掛かる寮生に毎日悩んでいます。職員を増やしたいけど、そもそもお金は足りんのです。行き場のないこの子をどうすんねんって。その使命感だけでやってます」

 再犯率、収容率、そして経営…。数字に追われる毎日でも立ち止まってはいられない。
(敬称略)

 ▼更生保護施設の現状 仮釈放者や満期出所者で帰る先がない人を、仮釈放期間または出所後6カ月まで預かる施設。社会復帰を支援するため就職指導や社会適応のための生活指導もする。国の認可を受けた更生保護法人や社会福祉法人などが運営。高齢者や障害者の増加に伴い、2009年度から57施設に福祉職員を配置した。年間の利用者は約1万人、収容率の平均は76・5%。利用者数に応じて支払われる国の委託費などで経営する。職員の多くは矯正や更生保護に携わった経験者。職員の平均年齢は60・9歳。

=2012/04/23付 西日本新聞朝刊=

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